プロローグ

1/2
前へ
/31ページ
次へ

プロローグ

中世ヨーロッパ風の農村にアイドル衣装のフリルが揺れる。 闖入者にどよめく傭兵たち。 そばには人質が――この村の少女と選王候の高慢息子がいる。縛られてはいるけど五体満足。大きなケガもなさそう。 わたくしは隣のマルガとうなずきあう。 傭兵たちは武器を構える。 突如空から降ってきたわたくしたちにこの反応の速さ。さすがは歴戦の戦士。ここまで生きてこれたのもうなずける。 こんなことしなくても生きてられるなら、もっと良かったのにね。 「一応伝えておくわ。武器をおろして人質を解放して」 「あぁ? 領主んとこの魔導騎士か?」 「こーんな“かわいい”お嬢ちゃんたちが?」 「もしかして代わりにっつーことかよ!」 ゲラゲラと笑う傭兵たち。 不愉快。けれど傭兵たちの事情は聞いている。だから案外腹は立たない。 「譲歩ってんならまず領主だろ。こちとら仕事はきっちりこなした。反故にしたのはそっちだろ?」 ひときわ眼光の鋭い男――傭兵隊長が口を開いた。 彼らの罪状は農村での略奪。理由は報酬未払いの領主に対する報復。 つまり傭兵たちの目的は仕事の対価。 ここの領主が報酬を渋る理由はただ払いたくないだけ。 対して傭兵たちの仕事ぶりに落ち度はない。 どう見ても領主が悪い。 前のわたくしだってサービス残業は好かなかったようだもの。 「わたく――わたしも領主が報酬を支払えば済むでしょ、と思うわよ。でもこちらも仕事なのよね。それもお世話になっている人経由の」 「あの、ひとつ提案があります……。領主さまからいただいた、私たちへの報酬を差し上げます。それで手を引いていただけないでしょうか?」 「いくら? …………足りねえな」 マルガがおずおずと伝えた額に、傭兵隊長は首を横へ振った。 ダメか。ケチくさい領主め。あの商人ももっとがんばって交渉してほしかった。 やはりわたくしも加わるべきだったかしら。けれどあまり首をつっこんだら顔をつぶしてしまうでしょうし。 「仕方ないわ、やりましょう」 「うん。……申し訳ないですけど、出ていってもらいますね」 マルガがギターを構える。わたくしは光る鍵盤を展開した。 ギュイン。マルガがギターをひと鳴らし。うん、調子は良さそう。 さすがにデビューライブの観客が、近くの村を襲う傭兵集団とは思ってもみなかったけれど。 とっておきの衣装はマルガと色違い。練習だってしてきた。のどの調子もバッチリ。 ねぇ、フリーデ・ツェツィーリア・シュテファニ・フォン・ゼーヴァルト。 いいえ、今のわたくしはただのシュテフィだけれど。 今日がきっとわたくしたちの、アイドルとしての一ページ目になる。 わたくしはピンクゴールドの髪をひるがえしてマルガにアイコンタクトを送る。 マルガもテラローザブラウンの髪を揺らして小さくうなずく。まるい金色の目が緊張したように、そして少しだけ興奮したようにキラリと光った。 きっとわたくしのブルーの目も同じように光っていることでしょう。 マルガはギターを構え直して、わたくしはピアノを出現させて、胸いっぱいに空気を吸いこむ。 「私はギターのマルガレーテ!」 「わたしはピアノのシュテフィ! サインをもらうなら今のうちよ!」 「は? サイン?」
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加