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マルガがギターをかき鳴らし始める。わたくしもピアノを弾き出す。
わたくしの知るこの世界と別世界の音楽知識。マルガの天性の才能。
作詞作曲マルガレーテ、編曲はわたくしシュテファニ。二人で作り上げたデビューソングの初披露相手になれることを、光栄に思うといいわ。
傭兵たちは怪訝な顔をした。
それはそうでしょう。教会音楽とも農業歌とも異なる、聞き覚えのないメロディ。
わたくしの知る別世界の言葉で表すなら。この音楽ジャンルはそう――――ロックだ。
「! 音楽魔法!!」
気づいても遅い。音楽魔法は聞こえた時点で手遅れだ。
マルガの歌声が響き出す。
歌唱力は言うまでもない。特筆すべきは“真珠”の名前通りの、美しさと気高さを兼ね備えた芯のある声。
傭兵たちも雷に打たれたように一瞬動きを止めた。村のあの子は息をのんでいる。あの皮肉屋の選王候息子さえもポカンと呆けている。
ふふ、そうでしょう。マルガの歌声は最高でしょう? わたくしも初めて聴いた時、そのようにあっけにとられてしまったもの。
デビューソングの内容は奮起と決意。
困難なことがたくさんあって、これからもきっとたくさんの苦難がある。でも二人なら乗り越えられる。手をつないで一緒にいこう。
そのような歌だ。
マルガのギターさばきにどんどん磨きがかかっていく。本番に強いタイプだったとは知らなかった。
出会ってから八年も経つのに、まだ知らないことがある。そんなところも魅力的だわ。
ノリノリのメロディとマルガに、わたくしも高揚していく。
どうしよう、楽しい、楽しい! 楽しんではいけないのに。
あぁ、そんなふうに弾くの? ならこんな音はどう?
スネアドラムを召喚して分身に叩かせる。驚いたようにマルガがわたくしを見て、すぐにキラキラした笑顔を浮かべた。
お気に召したみたい。
サビにさしかかる。音量と熱量が上がる。マルガにチラと目をやった。
マルガもわたくしを見ていた。どちらからともなく手をとる。
演奏はいったん分身に任せよう。今は歌え、歌え、歌え!
わたくしとマルガの歌声が生み出すハーモニーが爆発的な威力を持って傭兵たちの膝を折る。
手を取り合ってマルガと踊りながら高らかに歌う。顔を見合わせて笑った。
傭兵のほとんどは完全に歌にのまれて、抵抗どころかリズムを取り始めている。
いいわ、だってこんなに楽しいのだもの。敵とか味方とか関係なく歌いたくなるわよね。
今ならコーレスもサービスしちゃう。
「敵とはいえ初観客! 楽しんでいってください!」
間奏にさしかかると、あの大人しいマルガが楽しそうに言った。わたくしもそれに乗って傭兵たちに声をかける。
ああ、マルガがこんなに笑ってる。わたくしは少しでも罪滅ぼしができているかしら?
これまで踏みつけてきた人々と、マルガのいたアイライトゥン村の人々と、マルガの父に。
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