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追放
群れに帰るといち早くボスに報告した。ハイイログマに復讐したいことを含め。ボスはすぐ決断した。ぼくに群れから出るように、と。
それは当たり前だ。ぼくの行動は群れを危険にさらすのだ。ぼくが死んでもその脅威はきっと群れに降りかかる。あのウイットナプ…『クレイジー・ハンド』はそれほど恐ろしく、そして執念深いという。
「おまえの気持ちもわかるが、オオカミは何よりも群れを優先させる。おまえごときだろうが、その群れの行く末に障害になるなら、そいつはわれらの敵となる」
「わかりました。ぼくは行きます。たとえぼくひとりでも、そのハイイログマは殺します。ミーアを殺し、食ったやつを放っておけません。いまになってわかったんです。ぼくは彼女を愛していたんです。猫でしたが。そして彼女もぼくを愛してくれていたんだと思います。犬ですが。ですからかたきはとりたいのです」
そうしてぼくはオオカミの群れから離れた。
「あんた、戦う前にちゃんと食べるのよ。空腹で戦っちゃダメ。でも、満腹でもダメよ。腹を切り裂かれたとき、すごいことになっちゃうから」
ボスの奥さんがそう言ってくれた。あんなにぼくを嫌っていたのにね。
「にいちゃん、頑張れ」
「にいちゃん、負けんな」
2頭のガキンチョも応援してくれる。ほかのオオカミたちもうなだれてくれている。でも一番にその声を聞きたかったのはやっぱり…。
「行くのね…。あんたがそのミーアって娘をどれだけ愛してたなんて知らない。そんなのはどうでもいい。あんたがどうしたいかが大事…。あんたはバカよ。そんなヤマネコなんて…」
「ジェシカ…」
「ごめん。言い過ぎた。ねえ、あたいはさあ、ここにいるよ。あんたがもし生きていて、そしてあたいがいやじゃ…なかったら…またここに戻ってきて」
ぼくはそれに答えることができなかった。だってきっとぼくは死んじゃうんだから。なにも死ぬことはないって、ぼくの本能は叫んでいるけれど、ぼくはそれでもやらなくちゃならないんだ。生きることって、それだけじゃない。自分が死んで、ほかを生かすのも、生きることなんだ。決して復讐だけのためじゃないんだ。
そうしてぼくは群れを出た。しばらく森を歩いていたら、オオカミの遠吠えが聞こえた。それは自分の縄張りを示す声ではなくて、どう言ったらいいのかな…もうすぐ死ぬぼくへの、それは悲しみに満ちた鎮魂歌…のようだった。
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