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再会
あとわずかだった。ぼくの胴にあいつの前足の鋭い爪がつきたてられるのは。
「くそ!くたばれ!」
ぼくはそう叫んで目の前の茂みに飛び込んで行った。そして茂みの木の根に牙をたてた。すぐぼくの上をあいつが飛んでいた。ぼくを殺そうと空中で前足をバタバタさせた。だがそれはむなしいこと。クレイジーハンドは深い谷底に放り込まれたように落ちていった。大きな叫び声をあげながら…。
やった…。あいつを殺した。ぼくがやっつけたんだ。ミーアのかたきをとったんだ。なんにもできなかったぼくが、あのおそろしいグリズリーを倒したんだ。これでいい。もうこれでいいんだ…。
オオカミたちの足音がした。きっとボスたちだ。だがもうダメだよ。ぼくは茂みの根っこにかじりついているだけ。この崖はもう登れない。ぼくもあいつと同じに落ちていくんだ。この深い谷底が、ぼくのお墓になるんだ。
そのとき――
ターン
あれはライフルの音だ。人間のライフルの音だ。一斉にオオカミたちは逃げ散っていく気配がした。ああきっとハンターがいたんだ。いくら強いあのボスでも、ハンターには敵わないさ…。
「おーい、ワン公、生きてるかー?」
え?
「おおー、えらいなー。しっかりくわえてろよ。いま引っ張り上げてやるけど、噛まないよな?」
え?え?
「いいかー、噛むなよー、暴れるなよー」
その人間はぼくの背中の毛皮をがっしりとつかみ、崖の上に引っ張り上げた。超痛かった。引き上げられても、ぼくは負傷している肩の出血と疲労で、もうほとんど動けなかった。横倒しになり、ただハアハアと息をするだけだった。
「まったくもう、とんでもねえな、こいつ」
そう言ってその人間はぼくを肩にかついで歩き出した。遠くでオオカミたちの遠吠えがした。ぼくはそうして意識を失った。
気がついたのは粗末な小屋だった。これはハンターたちが狩猟のとき使う狩猟小屋と呼ばれるもので、いくつか山にあるのは知っていたが、近づこうとは思わなかったところだ。だって人間が一番恐ろしい生き物だって、死んだミーアもボスのリグドも言ってたもん。
「おまえなんだか見たことあるな」
人間がなに言ってるかわからなかったが、ぼくはこの人間の匂いを知っている気がした。そうだ、この人間はたしか…そうだ!スポーツショップのマイケルだ!
ぼくが鼻を鳴らしたのを、マイケルは驚いて、あ、でも何か思いついたような顔をした。そしてじっとぼくを見て、すぐさま棚に手を伸ばした。ああ、あれは無線機と言って、遠くの相手としゃべることができる魔法の箱だ。
「ああそうだ!見つけた!いや絶対そうだ。間違いない。首輪?そんなもんもうくっついてるわけないじゃないか!いいから早く来いよ」
なんだか慌てていたみたいだけど、マイケルは嬉しそうにぼくのところに来て、そうして頭を撫でてくれた。肩のケガはマイケルが治療してくれたようで、包帯ってやつがグルグル巻きになってて、消毒薬の臭くてたまらない匂いにうんざりしていたけれど、ぼくはマイケルの手をなめて、感謝をしたんだ。
朝になって、霧が少し出たけど、すぐに晴れた。すると山の向こうから大きな音がして、なにか大きな鳥みたいのが飛んできた。ああ、あれはヘリコプターっていうんだった。それはみるみる近づいてきて、すぐそばの草原に降りたんだ。そうしてそのヘリコプターからふたりの人間が降りてきた。ひとりは見たことがない女の人で、もうひとりは…。
「リック!」
彼が走って来る。ぼくの名を呼びながら。ああ、なんだか夢を見ているみたいだった。ロバートがぼくを抱きしめた。ぼくは懐かしいロバートの顔を思いっきりなめまわした…。
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