再会

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

再会

あとわずかだった。ぼくの胴にあいつの前足の鋭い爪がつきたてられるのは。 「くそ!くたばれ!」 ぼくはそう叫んで目の前の茂みに飛び込んで行った。そして茂みの木の根に牙をたてた。すぐぼくの上をあいつが飛んでいた。ぼくを殺そうと空中で前足をバタバタさせた。だがそれはむなしいこと。クレイジーハンド(ウイットナプ)は深い谷底に放り込まれたように落ちていった。大きな叫び声をあげながら…。 やった…。あいつを殺した。ぼくがやっつけたんだ。ミーアのかたきをとったんだ。なんにもできなかったぼくが、あのおそろしいグリズリーを倒したんだ。これでいい。もうこれでいいんだ…。 オオカミたちの足音がした。きっとボスたちだ。だがもうダメだよ。ぼくは茂みの根っこにかじりついているだけ。この崖はもう登れない。ぼくもあいつと同じに落ちていくんだ。この深い谷底が、ぼくのお墓になるんだ。 そのとき―― ターン あれはライフルの音だ。人間のライフルの音だ。一斉にオオカミたちは逃げ散っていく気配がした。ああきっとハンターがいたんだ。いくら強いあのボスでも、ハンターには敵わないさ…。 「おーい、ワン公、生きてるかー?」 え? 「おおー、えらいなー。しっかりくわえてろよ。いま引っ張り上げてやるけど、噛まないよな?」 え?え? 「いいかー、噛むなよー、暴れるなよー」 その人間はぼくの背中の毛皮をがっしりとつかみ、崖の上に引っ張り上げた。超痛かった。引き上げられても、ぼくは負傷している肩の出血と疲労で、もうほとんど動けなかった。横倒しになり、ただハアハアと息をするだけだった。 「まったくもう、とんでもねえな、こいつ」 そう言ってその人間はぼくを肩にかついで歩き出した。遠くでオオカミたちの遠吠えがした。ぼくはそうして意識を失った。 気がついたのは粗末な小屋だった。これはハンターたちが狩猟のとき使う狩猟小屋と呼ばれるもので、いくつか山にあるのは知っていたが、近づこうとは思わなかったところだ。だって人間が一番恐ろしい生き物だって、死んだミーアもボスのリグドも言ってたもん。 「おまえなんだか見たことあるな」 人間がなに言ってるかわからなかったが、ぼくはこの人間の匂いを知っている気がした。そうだ、この人間はたしか…そうだ!スポーツショップのマイケルだ! ぼくが鼻を鳴らしたのを、マイケルは驚いて、あ、でも何か思いついたような顔をした。そしてじっとぼくを見て、すぐさま棚に手を伸ばした。ああ、あれは無線機と言って、遠くの相手としゃべることができる魔法の箱だ。 「ああそうだ!見つけた!いや絶対そうだ。間違いない。首輪?そんなもんもうくっついてるわけないじゃないか!いいから早く来いよ」 なんだか慌てていたみたいだけど、マイケルは嬉しそうにぼくのところに来て、そうして頭を撫でてくれた。肩のケガはマイケルが治療してくれたようで、包帯ってやつがグルグル巻きになってて、消毒薬の臭くてたまらない匂いにうんざりしていたけれど、ぼくはマイケルの手をなめて、感謝をしたんだ。 朝になって、霧が少し出たけど、すぐに晴れた。すると山の向こうから大きな音がして、なにか大きな鳥みたいのが飛んできた。ああ、あれはヘリコプターっていうんだった。それはみるみる近づいてきて、すぐそばの草原に降りたんだ。そうしてそのヘリコプターからふたりの人間が降りてきた。ひとりは見たことがない女の人で、もうひとりは…。 「リック!」 彼が走って来る。ぼくの名を呼びながら。ああ、なんだか夢を見ているみたいだった。ロバートがぼくを抱きしめた。ぼくは懐かしいロバートの顔を思いっきりなめまわした…。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!