師匠

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師匠

野生の動物が大自然の中でやること。それは食べることと繁殖だ。それ以外にない。お散歩や、お昼寝タイムや小さなクマのぬいぐるみとじゃれることはなかった。息をし、狩って、食べて、そして隠れて…すべて命と直結してた。 あの緩やかな日々…ロバートは家に帰ってくると真っ先にぼくの食事を用意してくれる。牛肉味、豚肉味、鶏肉味、ツナそして羊に、あとわけのわからない大豆っていうやつ。それは嫌いだ。やっぱ牛肉味がいちばん好きだった。だけどほんとうの骨付き肉を食べたときは、もう天にも昇る思いだった。それに骨はいつまでしゃぶってても味が出て、噛んでいるとあまりのおいしさに天国に昇るような気分になったっけ。まあそいつはクリスマスとか、ぼくの誕生日くらいしかロバートはくれなかったけどね。 「さあ小僧、食事だ」 「はい?」 「食え」 師匠が獲って来たそれらは何かうぞうぞ蠢いていた。えー食えったってこれ虫じゃん。こんなもん食えるかよ! 「あの師匠?これって虫ですよね」 「さよう。いかにも虫じゃ」 「これって食べられるんですか?」 「たわけが!これはこの森の唯一のごちそうなのじゃぞ!」 「でもあんたリスでしょ?リスが虫食うの?」 「勝手に何言ってるんじゃ。われらマーモットは基本なんでも食う。だから生き残れるのじゃ」 「ふうん…」 まあそうだよね。こういう過酷な環境で生きていくのは大変なんだ。 「あの…これは?うじうじ動いてますが…」 「それはスズメバチの幼虫じゃ。噛むとプチプチしてうまいぞー」 「どっからこんなもん」 「腐った倒木の幹にいくらでも巣がある。あとで教えるから取ってこい」 いや絶対いやだ。 「あのー、じゃあこれは?」 「いちいちめんどくさいやつだな。そこらで動いているものを見繕った。動いておればそれすなわち餌じゃ」 「いやいいかげんだから。そういう定義あぶないから」 「やれやれ、生きるという意味をまだ知らんのじゃな…」 知りたくねーよ、そういうのは。だいいちこいつは真っ赤でいっぱい足がはえてて、どうにも毒がありますって姿してるんだけど。 「なあ師匠」 「なんじゃ?」 「さっきからスゴイ羽音がするんですけど」 「羽音…ねえ…」 師匠はしばらく考えたあと、ぼくに川に飛び込めと言ってどこかに消えた。はあ? 「なにが起きた…」 目の前が真っ暗になるほどそれはいた。それはカンカンに怒ったスズメバチの大群だった。ぼくは思わず川に飛び込んでいた。
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