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決断
血の匂いがした。それと大きな悲鳴。それはあのヘラジカのものだとすぐわかった。
「ボス、仕留めたわよ」
もう一頭のオオカミがあらわれた。少し体が小さかったが、毛並みがすごく美しかった。
「ご苦労だったな、ジェシカ」
「あんなのは朝飯前よ。って、そいつはなに?」
「ご覧の通りワン公だ」
「ワン公?いやこんなとこで犬がなにしてんのよ?」
そのうち5、6頭のオオカミがヘラジカを引きずってきた。どれもみな獰猛な顔をしていて、ぼくは思わず身震いをしてしまった。
「向こうの岩山まで運ぶ。ここはウイットナプの野郎のテリトリーに近いからな」
そう言ってそのオオカミとなかまたちはヘラジカを咥え、引きずっていく。
「おい小僧」
血だらけの顔になったオオカミのボスがぼくを見た。
「なんですか?」
「手伝うか、どこかへ行くか、いまここで決めろ。死にたくなかったらな」
「え?」
ぼくは驚いたが、それ以上にさっきの毛並みの美しいオオカミが驚いた。
「ちょっとボス!こんなのどうすんのよ?こんなへなちょこのヘタレ犬なんか何で連れてくの?」
「さっきからウイットナプの匂いがしてくる。うかうかしてるとヤツに出会っちまうからな。こいつにも手伝わせるのさ」
「でも」
「力も少しはありそうだし、知恵もまわりそうだ。いざとなったらおとりにできるしな」
「まあボスがそう言うなら」
渋々っていう感じでそのオオカミはまたヘラジカを咥えた。あたりはオオカミの唸り声に震えているようだ。
「さあどうする?」
オオカミのボスはぼくに決断を迫っている。ぼくはどうすればいい?そんなこと決まってる!ぼくは迷わず大きなヘラジカの体に、ぼくの牙を突き立てた。
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