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「……あ、……ごめ……」
小さな声が、耳元に聞こえた。いつもより、濡れた声は、甘やかで、色っぽい。
寝室には、荒い息使いばかりが響いている。彼方は「ん、平気」と呟きながら、大樹に手を伸ばした。首の後ろに手を回して、そっと引き寄せる。何度かわしたのか解らないキスをもう一度。柔らかくて熱い唇の狭間から、舌が差し入れられて、絡みあう。ぬめる、感触がして彼方の腰がぞくっと甘く震えた。
何度繰り返しても、飽きるどころか夢中になってしまう。
味などしないはずなのに、なぜか、絡み合う唾液が、ひどく甘く感じる。
(あ、もしかしたら……薬のせいかも……)
ぼんやりする意識の中で、彼方は薬の事を思い出した。液体……シロップ状のさらさらとした透明な、甘い液体だった。一人で全量を飲むんだよと言われていたが、少し怖くなって、半分を、大樹に呑ませてみた。勿論、呑ませたことについては言っていない。
恋人である大樹は、いつも、淡泊だった。
彼方が誘えば、してくれるが、彼から誘われたことはない。
それに、セックス自体も、それほど夢中になれるものではないのか、一通りして、それで終わり。それが、物足りない。
「……かな……、もう一回……ダメ……?」
切ない眼差しを向けられて、彼方に許可を求める大樹を見た時、胸が、キュンと疼いた。
さっき達したばかりなのに、もう、大樹の欲望は張り詰めて固く主張して、彼方の脚に押しつけられている。いつもより、もっと、猛々しいような気がした。
「……いいよ、何回でも」
恋人の欲望が、自分に向いているという事実が、彼方の胸を一杯にする。
「いっぱいして」
その言葉で、大樹の理性のたががあっさり外れた。
彼方の腰を抱えて大樹の精が溢れるそこに、再び欲望をあてがう。一息に穿たれ、彼方は息が詰まった。
「っ……っ、あ、っ……ちょっ、まっ……」
少し待って欲しい、という彼方の制止もおそらく、大樹は聞こえていない。ひたすら、小刻みな抽送を繰り返し、彼方の最奥を侵し続ける。
内壁は、何度か交わったあとなので、過敏になっていた。
「あっ、あっ、っあっ……っ」
彼方のほうも、感じ過ぎてしまって勝手に、そこが収縮する。薄く、大樹が笑った。
「あ、すご……締め付けてる。ね、感じてる……?」
耳元にダイレクトに囁かれるのは、いつもよりも低くて濡れた声だった。
「っ……っ、あ、だ……ダメっ……あたま、おかしく……」
「ダメ……俺は、満足出来ない……。彼方も、全然、満足してないでしょ?」
耳朶を、ゆっくりと噛まれる。その、痛みが、また、気持ちが良くて、細い悲鳴のような声が、喉の奥からほとばしる。
「……かな、好きなんだ……こういうの」
くすっと、耳元で大樹が笑った気がした。
「あっ……っ」
恥ずかしくて、顔が熱い。顔だけではなくて。全身が熱い。
かな―――と、大樹が呼んでくれるのが、彼方は好きだった。こういうとき以外、この呼び方をしないからだ。特別な行為の時の、特別な呼び方。彼方も、そういう呼び方をしたいのに、思いつかない。
「……んっ……」
脚を抱え上げられて、片足が、大樹の肩に掛けられた。彼方は、自由を奪われたが、大樹が恣にできる形だった。
「っ……」
「……かなの中……、凄い、気持ちいい……」
甘く甘く囁く。いつもは、こんな風に、囁いてくれない。もっと、することだけを、淡泊に『こなして』から、一度して、それで、終わり。
「あ……やっぱり、一緒に、クスリ飲んで、良かったぁ……大樹……も、気持ち良い……?」
「クスリ……?」
「うん……媚薬。えっちな気分になるヤツ……あ、でも、大丈夫……その、セックスドラッグとかじゃないから……」
「……ふうん?」
大樹が笑う。そして、もう一度、彼方の耳を噛んだ。
「っんぅっ」
「……かな、は……エッチなことがしたくて、俺に、クスリ盛ったんだ?」
「う、うん……。ダメ……だった?」
「……俺の気も知らないで」
小さなぼやきのあと、「でも、かなが……セックス大好きで、こういう痛いのも好きな、ヘンタイなら……俺も、遠慮しなくて良いのかな」と耳を噛みながら、囁く。
「へ、ヘンタイ……って」
「……本当でしょ……? ……ほら、ここだってさ」
急に、前を掴まれた。息が詰まる。背中が弓なりに反り返った。
「っ……」
「……ほら、こんな風に扱われて、感じてるんだもん……」
思わぬ言葉責めに、羞恥心を煽られながら、彼方は、理性が蕩けていく。
「あ、や……っ……」
「嫌じゃないでしょ。……ね、かな。そんなに俺としたい?」
大樹と、視線がかち合った。
ぼんやりした思考の中、彼方は、答える。
「うん……。したい。……いっぱい、したい……、大樹、だけ……」
「じゃ、いっぱいしてあげる」
満足そうな声音を耳元に聞きながら、再び一気に貫かれ、意識が一瞬飛んだ。
もっと、もっと。
満足出来ない。
ねだりながら、彼方は、それが与えられることに満足していた。
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