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追想1-⒃
「直にって……どうやって?」
「お家を訪ねてみたらどうかしら。外国の方と言ったらまず、何か商いをなさっているでしょ?外国人居留地だとちょっと入って行きづらいけど、それでも身元くらいはわかるはず」
すらすらと探偵さながらの計画を口にする刹那に、流介は口をあんぐりさせた。
「すごいなあ刹那さんは。絵だけじゃなく推理力もたいしたものです」
「うふふ、こう見えても私、学校時代のお友達から「思考時計」って呼ばれてたの。正確に物事を考える時計みたいねって」
「思考時計……」
流介は面喰うとともに、いったいこの街には何人探偵がいるんだと軽いめまいを覚えた。
「しかし刹那さん、家を訪ねるといっても露西亜人と何のつながりもない我々には調べる術がありませんよ」
流介は思わず泣き事を口にした。どうやら刹那はひらめきを口にしただけで、どう実行するかまでは考えていないようだった。ここで何も思いつかないところが天馬と自分の違いだな、と流介は思った。
「あの、飛田さん、二手に分かれて調べるというのはどうでしょうか」
突然、亜蘭が謎の提案を口にし、流介は「二手に分かれる?」と首を傾げた。
「はい。例えば飛田さんと天馬さん、私と安奈という風に二つの組をこさえるとします。私と安奈が店の前をうろうろすればまた、外国人が脅しに来るでしょう。私たちが追い返されたら近くで隠れていた飛田さんと天馬さんが外国人の後をつけるのです」
「僕と天馬君が?」
何とも奇抜な亜蘭の提案に、流介はううむと唸った。面白い案だが危険でもある。実行するとしたらかなりの準備が必要だ。
「無事に外国人の家をつきとめたら『匣の館』で合流しましょう」
「いやしかし、天馬君と安奈君が何と言うかな……もし彼らが首を縦に振らなければ、悪いけど君の提案はなしだ」
「じゃあ、二人がやりますと言ったらいいということですね?」
「えっ?いや、それは……」
「では早速、了解を取り付けに参りましょう。うまくいったら「平井戸組」を結成します」
「やれやれ、参ったな……」
流介が助けを請うように視線を動かすと、二人のやり取りを聞いていた刹那が「素敵。あの小さい女の子がこんなに美しく凛々しい娘さんになるなんて。あなたも是非、描かせてもらうわね」と外国人の素性などどうでもよいかのような言葉を口にした。
「刹那さん、ありがとうございました。……ほら飛田さん、急いで行かないと日が傾いてしまうわ」
――まったく、うっかりパンを買いに行ったお蔭で思いもよらぬ冒険になってしまった。
流介は扉の前でそわそわしている亜蘭に目を遣ると、ふうとひとつため息を漏らした。
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