(1-2 ミオカの状況)

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(1-2 ミオカの状況)

 *** (ミウォーカ……)  残念ながら、母国でもしばしばそう間違われる。この世界の人間には慣れない発音なのかも知れない。 (それより、もしかして私、今軟禁されてる?)  ぼうっとすること数秒。ミオカはチラリと侍女を見た。カチューシャをした深い紫色の髪、日本人にも馴染みのある、ザ・メイドという感じの黒と白の服。 (とりあえず、状況を整理するか……)  そろそろ脳が情報を処理し切れなくなりそうだ。それに、少しでもできることをした方が、メンタル的にもいいだろう。 「……私のことはミオカでいいわ。あなたの名前は?」 「クロカと申します、ミオカ王女殿下」 「殿下もいらないわよ。早速、紙とペンをお願いしたいのだけど、用意してもらえるの?」 「はい、ミオカ様」  クロカはキャビネットの一番上の段から筆記具を取り出し、それを丸テーブルにテキパキと並べていった。自然なタイミングで引いてくれたイスに、ミオカが腰を下ろす。 (うーん、完璧な仕事振り)  思わずニヨニヨしてから、ミオカはペンを手に取った。新品の万年筆のような形のそれを一瞥して、先っぽをインクに浸す。 (まず、私の前世は中村未央佳(みおか)、日本人。そのことは置いといて……)  何語で書くか迷ったが、日本語で【中村未央佳(病死)】と書いた。母国語で書いて内容が漏れると面倒だし、今はとにかく頭をスッキリさせたい。 (というか、この世界の話し言葉、まんま日本語だよね……まあいいか)  深く考えないことにして、ミオカはペンを走らせる。肝心なのはここから。 【この世界=「救国の花が咲く」?】  『救国(以下略)』は中世ヨーロッパ風のよくある乙女ゲームだった。主人公の少女が攻略対象である男性キャラと会話し、その内の誰かと結ばれることを目指すゲーム。ミオカは全員は攻略しなかったが、そこそこ楽しかった覚えがある。 (さっきの広場の風景とか、廊下とか、たぶん『救国』で見たんだよね)  フラヴァート王国の首都・マイカン。自信はないが、ゲームの舞台も同じ名前だったような気がする。  決定的なのはクロカの存在だ。彼女は登場人物の一人で、平民出身の主人公に王家がつけた専属の侍女だった。クールで、超がつくほど有能。 (他のキャラもどこかにいるってこと?)  覚えているのは、主人公のリリアの他、攻略対象に王子と騎士がいたことくらい。 (王子の名前は確か……そう、ラナンクール。この国の第二王子と一緒……)  あのゲームのメインキャラは皆、花から取った名前だったはずだ。ここが『救国』の世界だという仮説が真実味を帯びてきた。  ミオカは四人の登場人物を箇条書きにして、改めてそれを眺めた。 【リリア:救国の乙女】  救国の乙女――ある日、奇跡の力に目覚めたリリアは、やがて国家の一大事を救うことになる――。 (ということは、その内大飢饉が起こるのかも……あれ? 今ってゲームのシナリオで言うとどの辺?)  クロカをうかがう。見たところで、別に彼女のクールビューティーな顔に答えがあるはずもないのだが。  【大飢饉】。これは重要な情報なので丸で囲んだ。急に不安になってきたが、ミオカは焦らず深呼吸をしてそれを静める。  ゲーム通りの展開が待っていると決まった訳ではない。まず、『救国』に隣国の王女は登場しないのだ。隣国の名前すらあったかどうか。それと、この国の第一王子・ジークムント――重要なポジションにいる彼は、『救国』のキャラではない。 (顔も名前も絶対知ってるんだけど……何で見たんだっけ? 色々読んでたからなぁ)  転生者だと自覚したばかりだから、記憶が曖昧なのは仕方ないだろう。ミオカはスペースを空けた下の方に彼の名を書いた。加えてもう一人。 【アルマン】  
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