1.この隣国生活、破滅注意

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1.この隣国生活、破滅注意

 ガタガタという、頭の先まで伝わる不快な振動にも、だいぶ慣れてきた。  母国を出て数日、王都を離れてからは十日以上。ミオカの馬車での旅は最終盤に差しかかっていた。  カーテンをめくると、ガラスのない四角い小窓から外の空気がスウッと入ってくる。レンガで舗装された見慣れない道、見慣れない街並み。馬車に従う騎馬の向こうに、道路で直立する警備兵や、こちらを興味津々に眺める庶民の姿が確認できた。 「お加減、大丈夫ですか、ミオカ様?」  向かい側に腰かけている唯一の同乗者に顔を向け、ミオカはクスッと微笑んだ。今日のミオカは、ドレスはベージュの質素なものながら、光沢のある赤い羽織り物とルビーのネックレスを身につけ、茶色の豊かな髪を綺麗に巻いている。自然と普段より上品な笑い方になった。 「今日は大して乗ってないじゃない。大丈夫よ。それより、あなたの体調はどう、ニーナ?」 「このくらいなら、何とかなりそうです……」  ちょっと怪しい声だ。でも、母国から一緒に旅してきた侍女の顔色は、長距離を移動した他の日に比べればマシな方だった。  ミオカは少し眉を下げてから、この後のことに思いを馳せた。長い睫毛を伏せ、青い瞳でカーテンをぼんやりと眺める。  隣国の王女であるミオカ・フォン・ハイデンルートがはるばるフラヴァート王国の首都までやって来たのは、この国の王家に嫁ぐためだった。実際に結婚するのは一ヶ月後で、それまではこちらの風習について学んだり、未来の夫である王子と顔合わせをしたりすることになっている。  どの王子と結婚するのかは、知らされていない。 (王族同士のまともな結婚としては、あり得ないことばかり。お父様の本音が透けて見えるわね)  正式な国交のないフラヴァートと姻戚関係を結ぶことを望んだのは、ミオカの父、国王ディートリヒ二世だった。だが、高官の派遣もなく書面だけでことを進めたり、年頃とはいえ身分の低い母を持つミオカを押しつけたりするのは、相手に敬意を払ったやり方ではない。横暴であからさまな政略結婚だ。  ミオカとしては、王女に生まれた以上、(まつりごと)の道具にされるのは必然だと思っていたし、むしろ、母国の目の届かないところへ来て、肩が軽くなった気さえする。でも、この国の人々は、そんな国から来た花嫁をどう思うだろうか。  
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