1.この隣国生活、破滅注意

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 そうこうしている内に、先導の騎馬が「止まれ」と号令をかけた。ミオカの馬車もピタリと停止する。  目的地に着いたのかも知れない、と気持ちを引き締めていると、コンコンと扉をノックされた。 「王子殿下がお出迎えになっています。王女殿下におかれましては、ぜひご挨拶を」 「分かったわ」  ニーナに目配せする。頷いた彼女が先に馬車を降りて、ミオカは彼女の差し出した手を支えに、王女らしく優雅に下車してみせる。  辺りの風景に目を向けて――。 (あれ? この景色……)  中央に噴水がある、石畳の丸い広場。その奥に、低い石垣に囲まれた白い城と、爽やかな青空。 (見たことあるような……待って、これってまさか)  前方から歩いてくる人影に、ミオカはハッと我に返った。紺色の仕立てのいい服をパリッと着こなした、銀色にも金色にも見える髪の青年――。 「えっ、ジークムント?」  青年が足を止めた。ざわめく双方の同行者。一拍経って、ミオカはようやく自分の失言に気づいた。 (ごめんなさいお父様、ランドルフお兄様。早速やらかしてしまいました)  他国の王族をいきなり呼び捨てにするなんて、大失態もいいところだ。  だが、それより。  より。  彼が『ジークムント』だと認識した瞬間、雷に打たれたような衝撃が走った。思い出したのだ。ミオカは前世で日本人だったこと、この風景は前世でプレイしたゲームの背景だったということを。 (じゃあ、私はいわゆる転生者……でも、この状況、一体何がどうなってるの?)  ミオカが青年を見守っていると、彼がさらに三歩近づいてきた。軽く立礼をされる。 「いかにも、私は第一王子のジークムント・ファン・バナムードです。お目にかかれて光栄です、王女殿下」 「大変ご無礼いたしました。リヒターベン王国が王女、ミオカ・フォン・ハイデンルートです」  今さら取り繕っても遅いかも知れないが、ミオカはドレスをつまんで、やりすぎなほど丁重にお辞儀した。 「頭を上げてください。まずは、長旅でお疲れでしょう。部屋まで案内させてください」 「ご厚意に感謝します」 (殿下、目が怖いです……)  ジークムントが待たせていた自身の馬の方へ歩き出すと、ミオカはそそくさと馬車に乗り込んだ。ニーナが後に続く。 「どうしちゃったんですか、ミオカ様? 急に王子殿下の名前を呼ぶなんて、肝が潰れるかと思いましたよ」  いつもならニーナの小心をからかうシーンなのだが、今度ばかりはその余裕がないくらいには動揺していた。ミオカは一度、ゆっくり深呼吸をした。 「ねえニーナ。この先、私はもっと変なことを言ったりしたりするかも知れないけど、ついてきてくれる?」  一瞬キョトンとしてから、ニーナはパッと笑顔になった。 「ミオカ様はもう十分、変な方ですよ。私のような侍女と親しく接してくださるんですから。一生ついていきますので、安心してください」 「ありがとう。でも、一言余計よ?」  二人は馬車の中でクスクスと笑い合った。幼い頃から一緒に過ごしてきた彼女がいれば、きっと大丈夫――。  
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