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まるで止まっていた時間が引き戻されるように、お堂は見る見る古ぼけて行った。
手分けして子供達に旅の支度を整えさせた瑞雲は、朽ち始める建物から逃げるように東の谷へと下り、この時の為に誂えたように川に浮いていた船へと子供達を乗せた。
「船の漕ぎ方は分かるな?雪華に言われた通り、川下の村に行きなさい」
そう子供達に告げ、懐に仕舞っていた一筆を取り出す。
それは近々寺を出る予定だった最年長のリンに渡すつもりで、彼女の力になればと己の名と元いた寺の名前を認めたものだった。
「困ったことがあったら、これを麓の寺に持って行きなさい。都では名が通っている故、力になってくれる筈だ」
手持ちの銭全てと一筆をリンに渡し、強く言い聞かせる。
「瑞雲様はっ?」
リンは咄嗟に彼の手を掴み、不安を写す瞳で訊ねた。
瑞雲は膝を折り、子供達と視線を合わせて微笑んだ。
「雪華を一人には出来ぬ。皆、達者で暮らせ」
そう言って船を岸から押し出し、行けとばかりに下流を指差す。
闇迫る川は空の紅を写し、黄金の夕日に向かって瑞雲は走り出した。
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