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カヌレ~見た目と中身の違いについて~
――まさか見合いの席に、上司が来るなんて誰が想像するだろう。
三十二歳、独身。
結婚なんて別にしなくていい。
私がそうでも、親というものは許してくれない。
「年取ってからのひとりは淋しいぞ」
「そうよ。
別に孫がみたいとか言わないから、老後の支えと思って」
なんだかよくわからない理屈で押し切られ、父の同僚の、息子とやらと見合いをすることになった。
全く乗り気じゃなかったが、高級フレンチでの会食、さらにデート感覚で、ふたりで会ってきたらいい、とのことで、まあ顔だけ見て断るか、程度にハードルも下がった。
――がしかし。
「え?」
案内された席に先に座っているのが上司で、固まった。
いや、名前を確認しなかった私にもミスはあるんだろう。
佐藤なんて名前はよくあると、ただの偶然だと済ませてしまったから。
「なんで、佐藤課長がここに?」
「僕が君の見合い相手だからだが?」
くいっとその長い指で、彼が銀縁スクエア眼鏡のブリッジを押し上げる。
「それは、そうなんでしょうが……」
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