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また課長が眼鏡を押し上げる。
けれどその弦がかかる耳が、真っ赤になっているのに気付いてしまった。
もしかしてこの人は外側をガチガチに武装しているけれど、中身はずっと可愛い人なんじゃ?
「本当は見合い相手の顔を見て、美味しい食事だけ堪能して帰るつもりだったんです」
「そ、そうか」
珍しく、彼が動揺した。
いつもは一ミリも表情すら変わらないのに。
「でも、気が変わりました。
結婚はまだ正直考えられませんが、佐藤課長と付き合ってみるのもありかな、と」
「本当か!?
……あ、いや、すまない」
テーブルの上に乗りだした身を戻し、椅子に座り直した彼の顔は、耳どころか顔まで赤く染まっていた。
そういうところはやっぱり、可愛らしい。
……なんて言うと怒るだろうけど。
「はい、じゃあよろしくお願いします」
「こちらこそ」
彼の目尻が下がり、眼鏡の影に笑い皺がのぞく。
いつもこんな顔をしていればいいのに、なんて思った結婚半年前の話。
【終】
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