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その一方で私は、背が低い上に童顔。
一緒に歩いていたらたまに、親類の女子高生に間違われる。
それが嫌で嫌で堪らない。
「あー、その件ね。
だってあれ、君に似合ってなかったし。
ただの見栄で選んでるの、みえみえ」
「……」
当たっているだけになにも返せない。
じっと、膝の上で握りしめた自分の手を見つめていた。
気まずい時間を過ごし、車は海辺の駐車場で停まった。
「ほら、降りて」
無理矢理車を降ろされ、ふて腐れて課長の後ろをついて歩く。
誰もいない浜辺、ざっ、ざっ、と私たちの歩く足音と、波の音だけが響いた。
「覚えてる?
初めてのデートで観た映画で、夕日の沈む浜辺でのプロポーズシーンがあったの」
「……」
覚えている、それが酷く素敵で、憧れたのも。
「僕と結婚しよう」
振り返った課長が私の前で跪き、指環のケースをパカリと開いた。
「えっ、あの」
水平線には、真っ赤な夕日がゆっくりと沈んでいっている。
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