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「子供だなんて思ってないよ。
ちゃんと、対等な女性だって思ってる」
ケースに入っている指環は可愛らしいものではなく、シンプルないかにもできる女性が着けているようなデザインだった。
「……ごめんなさい」
課長の気持ちに気付いて、口からはぽろりと言葉が落ちていく。
「どうしてあやまるの?」
「子供な私でごめんなさい」
課長はいつも、私のことを考えてくれている。
でも、意地っ張りな私はそれを素直に受け入れられない。
けれど課長はそんな私すら、容易く捲って本当の私にしてしまう。
「だから。
子供だなんて思ってないよ」
レンズの向こうで目尻が下がり、笑い皺がのぞく。
やっぱり狡いな、課長ばっかり大人で。
でも、そういうところが好き。
「それで。
僕と結婚してくれるのかな」
課長にしては珍しく、少しだけ不安そうに訊いてくる。
「はい」
「よかった」
私の左手薬指に指環を嵌めてくる課長は、少年のように笑っている。
彼にもそんな一面があるのだと驚いた。
「幾久しく君を幸せにすることを誓うよ」
そっと、課長の唇が重なる。
空には一番星が光っていた。
【終】
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