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あんみつ~神様のお告げ~
――そのとき、私は確かに死んだと思いました。
「危ないな」
空中に踏み出していた右足から、草履がぽろりと脱げる。
それは高い石垣の下へと落ちていった。
「あ、えと」
その人が抱き抱えていた私を、そっと安全なところへ降ろす。
「その、助けていただき、ありがとうございます」
うう、恥ずかしすぎる。
風で舞ったおみくじを追いかけて、神社の境内から身を投げそうになっていたなんて。
「いや、別に」
私を助けたその人は、帝大の制服を着ていた。
爽やかに笑う彼に――胸が一度、甘くとくんと鼓動した。
「ああ、草履を落としてしまったんですね。
少し待っていてください」
彼は私をおいて、傍らの階段から下へと降りていく。
男性としても背が高く、銀縁の眼鏡をかけている彼はとても知的に見えた。
「どうぞ。
……ああ、足袋が汚れてしまいましたね」
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