キスマーク

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気に障ったのならパワハラで訴えていい、なんて真面目な顔で言うのがおかしくてOKした。 でも付き合いはじめてから一度も、私の言うことを聞いてくれたことはない。 「……もう別れる」 ぽろっと出たのは、最後のワガママ。 「はぁっ?! ちょっと待て!」 初めて、彼が慌てた。 「なにが悪かったんだ、キスマークならこれから毎朝、俺がチェックしてやる! 夜もできるだけ一回……いや二回……三回で終わらすし、だから」 なんでさりげなく、回数増やしているんですかね? でも私を引き留めようと必死な課長を見ていたら、ちょっとだけ機嫌は直った。 「約束、してくれますか」 「するする。 だから別れるとか言わないでくれ」 こくこくと彼が壊れた人形みたいに何度も頷く。 これでなにかトドメを刺せば、もしかして今後はもう少し、私の言うことも聞いてくれますかね? 「じゃあ約束、してくださいね……」 課長の肩に手を置き、顔を近付ける。 なにが起こっているのかわかっていない彼は、ぽけっとそのまま座っていた。 襟から出ているその首筋に歯を立てて――噛みついた。 「いてっ! なにするんだよ!?」
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