2-2.番《ツガイ》

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 (……問題しかないのでは?)  とても平常心ではいられないのだが、それでもルーナは心を落ち着かせようとする。  が、直視はできない。彼の顔が間近にあって、俯くルーナを見つめている。  甘い香りになぜか強烈に惹きつけられる。  ルーナは何とか王の胸板を押し、それに必死に抗った。  なぜこんなにも体が妙に騒ぐのか、やはりレナの体だからなのだろうと考える以外になかった。  「あっ、あなたは、レナを愛していたのでは。」  「名前はロルフだ。そう呼んでくれ。」  「……ロルフ……様は、レナを愛していたのですよね?  夫婦だったのでは。」  「ロルフで構わない。  いや、二人が番になるには儀式が必要だった。  その前にレナは死んでしまったから、正確には番ではなかった。  だが、お前が入ったその体が無事ならそれでいいだろう。」  「そ、そんなわけには……え?本当に?」  「嘘をついて何になる。」  「私はレナではないのですよ?  あなたとは今日まで全く会ったことのなかった、赤の他人だったのですよ?  それなのに、私と……?」  「何が悪いんだ。  体さえあれば中身が誰だろうと、問題ないだろう。」  怪訝な顔をされたが、ルーナは逆に同じようにして返した。    「ロルフ………あなた、最低だとは言われませんか?」  ルーナは震えていた。  これは一体何の怒りなのだろうかと、自分でもわけが分からなかった。  だがとにかく、ロルフのこの言動の全てに怒りが込み上げた。相手は聖獣だというのに。  「体さえあればとは何ですか。  あなたは悲しくはないのですか?  レナがこの世から消えたという事実が。」  「……なぜお前が怒っているんだ。  とばっちりを受けたのはお前の方だろう。」  ロルフは本気で分からない、といった顔をする。  これが狼の本質なのだろうか。確かに彼は普通の狼ではない。  だがどうにもレナの死に対して、あまりに淡々とし過ぎて、冷たい気がする。  ルーナは自分が死んだ時、淡々としてたフォルティスを思い出していた。  だがフォルティスは、葬儀の時に泣いていた。  あの時ルーナは初めてフォルティスが自分の死を悲しんでいてくれたことに気がついた。  だがロルフからはそういった、情緒といったものが全く感じられない。  だからこそルーナは怒りが湧き、同時に悲しかった。  「自分の大切な人が死んだら、ロルフは悲しくはありませんか。  レナがこの世から消えたら普通、泣きませんか?」  「………普通は泣くものなのか。」  どこか寂しそうにロルフは片手を握りしめ、それを開いて眺めた。  ようやくロルフはルーナから離れた。彼の髪や体からまだ甘い香りが漂っていた。  「普通はそうですよ。」  対してルーナは、ロルフに不思議な怒りを抱えたままだった。
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