0-1.大嫌いな婚約者

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0-1.大嫌いな婚約者

 エタンセル公国は北大陸にある6つの大きな大国の中間に位置し、面積約178㎢の比較的小さな領土を持っている。  四方を深い山に囲まれている為に、どこよりも寒い事で有名だ。  太陽に最も近い山の頂に建つレヴォントゥリ城を中心に、首都ネーヴェとそれを取り巻く外周にいくつかの都市があり、その周辺に小さな町などが広がっている。  また、一年中気温が低いため常に空気が澄んでいて、夜には星が散りばめられた夜空が、昼には湖や使われなくなった古城などが、非常にくっきりと美しく見えたりする。  公国には一年間に約3度の寒気が訪れる。  一番初めに訪れる初冬、本格的に冬籠りしなければならない本冬、そして最後に訪れる遅冬だ。  年間を通しても一日の日照時間は短く、本冬は更に短くなる。まさに極寒。  そのため日が照らない時は薄暗く、日中でもまるで夜のような日もあった。    そんな公国に幼い頃から嫁ぐことが決まっていたルーナ・ノーチェ・ブリンクは、北大陸の大国の中でも二番目に大きい、ブリンク大国の第3王女として生まれた。    エタンセルの前公王とブリンク国王はかつて盟友同士で、二人はお互いが若い頃、まだ幼い自分達の息子と娘を将来結婚させようと約束を結んでいたのだ。    その息子というのが、やがて公王となるフォルティス・シュトラール・エタンセルだ。  両国間を家族ぐるみで行き来していた為、ルーナとフォルティスは早くから顔馴染みだったが、かと言ってそれほど仲が良いわけではなかった。  「ほら、見てみろルーナ。」    「え?何?……っ、きゃああああ!!」  まだ少女だったルーナが、両親に連れられてレヴォントゥリ城を訪れた際のこと。  後ろにいたフォルティスに、ルーナは唐突に腕を掴まれ、何かを握らされた。  開いた手を見てルーナは悲鳴を上げた。  何と握らされていたのは虫の形をした玩具(オモチャ)だった。    「あははは!引っかかった!やっぱりお前はマヌケだなあ!」  「……〜!フォルティス……っ!」  当時、フォルティスにとってはこれが毎回の恒例行事だった。  いつもルーナにイタズラしては揶揄(からかう)うような、ひどく幼稚な少年。  その後は性懲りもなく両親に怒られるということを繰り返す。  ルーナにとってフォルティスはまさに、火に油のような存在。  天敵だった。    「お母さま!私、あんな幼稚な男と結婚なんかしたくありません……!」
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