11. 彼と新しいわたし

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もし、結婚する前に出会えていたら。 素直に彼を責めれたのだろうか。 わたしには何もわからない。 盛岡くんに背を向けて寝転び、気付かれないように一粒だけ涙を流した。 * 二人で小さな食卓を囲み、盛岡くんが焼いてくれたパンを食べ、淹れてくれたコーヒーを飲んだ。 自分が家出した人妻だということを忘れてしまいそうなくらい、とても穏やかな空間だった。 「今日、どこか出かけようよ」 パンをかじりながら、何気なく盛岡くんが言った。 「え」 「ほら、俺せっかく今日休みだし。どっか遊びに行こうよ」 もう。なんなの、この人は。 「でもわたし、化粧道具とかなにも持ってきてない」 「いいじゃん、そのままで十分綺麗だよ」 「もう、やめてよ。買いに行くから」 「えぇー。ま、じゃあそれも込みで、デートしよっか!」 夜中に呼び出し泣きついてきたおかしな女に、どうしてそんなふうに振る舞えるのだろう。 どうして彼は、何も聞いてこないのだろう。 「……うん」 その無邪気さが嬉しくもあり、どこか不安でもあった。 盛岡くんにオーバーサイズのパーカーとダウンを貸してもらった。 鏡に映った彼の服を着たわたしは、別人みたいだった。 決して女の子っぽさはないけれど、それが良い。 「わたし、本当はこういうスポーティな格好が好きなんだよね」 「え、そうなの?俺も、女の子のそういう格好超好き。あ、そうだ。今日そっち系の服いっぱい買いに行こうよ」 楽しそうにいたずらっぽく微笑まれ、わたしはすぐに頷くしかなかった。
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