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美容院『モンカル』。
しかしコールが鳴り続けるだけで、なかなか出てくれない。
混んでいるのだろうか?
やっと担当の杉本さんの声がして、
『ごめんねりらちゃん!今日、混みまくりで、全然空いてないの』
断られてしまった。
「そうですかぁ……こちらこそ、突然でごめんなさい。何時でもオッケーなんですけど、無理そうですかね?」
『そうだねぇ……なんか水曜日なのにめちゃくちゃ混んでてさ』
杉本さんはわたしより10歳くらい歳上で、働きながら家事育児をしているお姉さん。
いつも気さくで明るくて、話も色々と勉強になるので、担当は彼女だと決めている。
『あ、そうだ。もしよければだけど』
思いついたように杉本さんが言う。
「はい?」
『最近別のサロンから移ってきた子がいるんだけど、その子に任すってなったらいけそうかも。……でも男の子だし、まだアシスタントだし、りらちゃんも知らない人だったら気遣うでしょ?』
男の子……。
「あー……いや、大丈夫ですよ!いきなり予約してるのこっちだし。杉本さんじゃないのは残念だけど、オッケーです!」
『本当?よかったぁ!アシスタントだけど腕はめっちゃ良いからさ!じゃあちょうど1時が空いてるんだけどどうかな?』
「行けます」
杉本さんじゃないことに若干抵抗を持ちつつも、久しぶりに知らない男の子とお喋りしてみるのもいいかもしれないと思った。
相手は美容師さんだし、それなりに話し相手になってくれるはずだ。
腕も良いみたいだし、期待しておこう。
なんとなく鼻歌なんて歌いながら掃除や洗濯をして、録画のドラマを観たりしているうちに、あっという間に時間は過ぎていった。
少しだけ、ほんの少しだけ、いつもより濃い化粧をしてみた。
とくに意味はないけど。
ーーまさかこの日、わたしのこれまでの人生をひっくり返すような出会いがあるなんて、思いもしていなかった。
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