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お互いの息がかかるくらいに顔が近付いて、唇をぐっと押し付けられた。
温かい舌が入ってきて、柔らかく絡み合う。
「んっ……」
キスって、こんなに気持ちよかったっけ。
頭がとろけてしまいそうだ。
昨日初めて身体を重ねたわたし達は、もう一度ひとつになった。
やっぱりそれは自然な流れだった。
盛岡くんは丁寧で、繊細で、気持ちのいいところをピンポイントで責めてくれる。
「あぁあっ……!」
絶頂に達し頭が真っ白になると同時に、強く強く、その大きな背中を抱きしめた。
愛おしい。
彼が愛おしい。好き。愛している。
終わった後の盛岡くんは、また煙草を吸った。
その後ろ姿がどこか遠く感じ、不意に泣きそうになる。
でもカッコいいから、全て許せる。
そもそもわたし、彼女でも何でもないし。
……そう、彼女でも何でもない……。
身体はもう十分に満足したけれど、心がどこか物足りない。何かが、欠けている。
わたしは見てしまっていた。
夜が完全に明ける少し前に目が覚めて、トイレを借りたとき。どこからどう見ても女子のアメニティ用の三角コーナーがあった。
洗面所には、なぜか片方だけの、小ぶりのキラキラしたピアスが置かれてあった。それは盛岡くんのものじゃないだろう。
盛岡くんには、多分、おそらく、付き合っている子がいる。
わたしがそれを責めることはおろか聞くこともできないのは、自分だって結婚しているからであり、これは大人の関係だとお互い割り切っているからだ。
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