63人が本棚に入れています
本棚に追加
/159ページ
マスクをして盛岡くんの影に隠れるようにし、すっぴんで街を歩く。
純二さんと歩くときは、いつもちゃんと化粧をして、髪を巻いて、ふわっとした甘めの格好をしていた。だからとても変な感じだ。
盛岡くんといると、自分までぐんといくつか若くなったような気がする。
きっとわたしは今、学生時代の青春を取り戻そうとしているのだ。
ショーウィンドウ越しに見ていただけで、ずっと入ってみたかった店。
なんのためらいもなく堂々と入っていく盛岡くんの後ろに続く。
あまりにもあっさりと、わたしの願望は叶った。
気になった服を、手当たり次第にさわっていく。
ロゴの入った、シンプルな黒のパーカー。
だぶっとした感じが可愛い。
ジーンズと合わせて、あそこのスニーカーを履いたら良い感じかも……。
なんて考えていたらきりがなくて、夢中で服をあさり、鏡にあて、試着もした。
「めっちゃ良いっす!似合いますねー!」
盛岡くんは毎回ハイテンションで褒めてくれる。
ふと、純二さんはこういう服装を嫌うだろうなと思った。
でもわたしは彼の着せ替え人形じゃない。
だから、自分の好きな服を、自分で選んで着る。
どうしてもいちいち思い出してしまう、純二さんのこと。
思い出すのは、嫌なところばかりだ。
穏やかな生活を送っていたのは、わたしがずっと違和感に気付かないふりをして目を閉じていたから。
でももうあんな日々はごめんだ。
わたしはわたしらしく。そんなわたしを愛してくれる人と一緒にいたい。
最初のコメントを投稿しよう!