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「ねぇ」
気付けばわたしは口を開いていた。
「あのさ」
「ん?」
「盛岡くんってさ、彼女いるよね?」
聞いちゃだめだ、聞いちゃだめだ。頭ではそうわかっているのに、言葉が勝手に出てしまう。
「……」
なんて返そうか迷っているのか、そしてそれは図星だからか。
盛岡くんはしばらく黙った。
気まずい沈黙が、10秒ほど流れる。
聞かなきゃよかった。でもこれ以上聞かないでいることも無理だった。
そして盛岡くんからやっと出た言葉は、
「……いたけど、最近別れたんだ」
嘘だ。
前を見たまま少し笑いながら言う彼の横顔が、とても憎い。
けれどやっぱり綺麗で、カッコいい。
夕焼けに照らされた肌の艶やかさがその罪深さを物語っている。
責めたかった。
嘘でしょ、嘘つき。最低。彼女いるくせに。
そう言えたら。そう言いたかった。
でも……
「そっか。別れたんだ。じゃあ今はいないんだね」
最後の理性で、わたしは気持ちを堪えて精一杯明るく言った。
もういいや。
辛いけど、憎いけど、それでも一緒にいられるのなら、もう騙されたふりをしていよう。
今彼に見捨てられたら、もう生きていけない。
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