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「いないよ」
あっさりとしたその口調がわたしの心情と裏腹すぎてつくづく嫌になる。
「……最近別れたのって、この間一緒にいた子?」
盛岡くんと楽しげに歩く、若くて可愛いあの子の顔を思い浮かべる。
「あー……あいつとはけっこう昔、数年前に別れてて。その次の子、かな」
せめてあの子であってほしかった。
まだ他にもいるのか、盛岡くんの元カノ。
責める権利は全くないのに、なぜか苛立つ。
「……そうなんだ」
「うん」
「最近、って、いつ別れたの?」
なに聞いてるの、わたし。
そういうのは聞かないのが大人の約束じゃん……。
「あー……っと、3ヶ月前、くらいかな」
これも、多分嘘だ。
出会ってからまだそんなに月日が経っていないけど、毎日ずっと彼のことを考えてきた。
きっと今、地球上で一番彼を好きなのはわたしだ。
だから、わかる。嘘をついていることくらい。
嘘を嘘だとわかっているのなら、問いただす必要もない。
わたしだって既婚者なのだから、黙って了承してこの関係を続けるのみだ。
そうわかっているのに……
「へぇ。じゃあ、全部そのままなんだね」
勝手に口から出る、棘のある言葉達。
「……あぁ、そういえば面倒臭くてなにも片付けてないかも」
ぎこちなく笑う、前を見たままの横顔。
どうかそのままわたしの方を向かないで。きっと今、嫉妬に駆られてすごく醜い顔をしているはずだから。
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