2. わたしと彼

2/10
前へ
/241ページ
次へ
透明の少し重めな扉を開けると「チャリリン」と鈴の音がした。 「いらっしゃいませー」と、軽やかで明るい声があちこちからわたしに降ってくる。 「りらちゃん!いらっしゃい!ごめんね今日は、わざわざありがとね。そこで待ってて〜」 ぱたぱたと走ってやって来た杉本さんに言われ「はーい」と笑顔で会釈した。 12:55。 わたしは座り心地の良いソファに腰掛け、テーブルに置かれているファッション雑誌を手に取り読んだ。 『大人の恋愛特集コーナー』という文字に興味をそそられる。 『夫と子供がいるのに、好きな人ができてしまいました。相手の方も既婚者で、小さなお子さんがいます。どうやら彼も私のことを思ってくれているようで、不倫関係が続いております。彼はもうすぐ離婚してくれると言っていますが、私も今すぐにでも離婚した方がいいでしょうか?』 思わず笑ってしまう。 なんて知能がないのだろう。お猿さんじゃん。 と内心バカにしつつも、恋愛研究家という肩書きの“先生”からの回答を読んでみる。 『相手の方のためというよりも、あなたの夫とお子様のために今すぐ離婚するべきです。それが無理なら、その彼との関係はきっぱりと終わらせるべきです。あなたの家族、そして彼の家族の気持ちをしっかりと考えましょう。それと一つ覚えておいてください。奪った恋は、最後は奪われて終わります』 誰でも思い付くような回答に、なにが恋愛研究科だとやっぱり笑ってしまう。 でも最後の『奪った恋は、奪われて終わります』というのは深みがあるような気がする。 自分が他人にしたことは、必ず返ってくる。それが世の中のサイクルだ。 それからも適当に他のページをぱらぱらとめくっていると、 「葉山様、お待たせしました」 高すぎず低すぎず、妙に落ち着いた男の人の声がわたしを呼んだ。 顔をあげた瞬間、ビビビっとわたしの全身が目を覚ました。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加