2. わたしと彼

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「じゃあ、一度辞められてたってことですか?」 「そうっすそうっす。バーで働きながら、友達とバンドやったりしてました。結局解散しちゃって出戻りって感じですね。やっぱ資格とっててよかったーって思いました」 “バー”で働きながら“バンド” で、現在“美容師”……。 それって、それって、もしかして…… 「ははっ、みんなによく言われます。お前“付き合ってはいけない3B”全部やってんじゃん!って」 わたしが言うより先に、彼が自分で言った。なにも恥じることはないように、豪快にけらけらと笑っている。 「あははっ、わたしも思ったけど、言っていいのか迷ってました」 「全然いじってください!あんなのただの偏見だしね。俺、めーっちゃ一途だから!」 ドヤ顔ともいえる少しいたずらっぽい笑顔で、今度は鏡越しではなく直接顔を覗き込まれて言われた。 きゅん。 なんだ、なんだ「きゅん」って。 胸が、きゅってなる。 ぎゅっ、じゃない。きゅっ、だ。 わたし、わかる。もう30歳だもん。 自分で自分のことを「一途」と言う男を、信用しちゃいけない。 そういう男にかぎって、表では彼女のことを大切にしているふりをしながら、陰で浮気相手ともまめに連絡とったりしてるんだから。 さっき顔を覗き込んできたのだってあざといし。 絵に描いたような、チャラ男じゃん……。 なのに、なのに。 顔、カッコイイ………!
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