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「雰囲気だいぶ変わったね。こっちの方が好きだわ。悔しいけど、盛岡に負けたーっ」
そんなに褒められると、本当に照れてしまう。
「いやいや、俺が杉山さんに勝てるなんて100年早いっすよ」
そう言いながらも、彼もまんざらではなさそう。
「でもりらちゃん、いつも決まったヘアスタイルだったのに急にどうしたの?」
「あー、盛岡くんに、すすめられて……」
「なるほどっ。盛岡、やるなぁー。これからも、わたしが忙しいときりらちゃんを盛岡に頼んじゃおうかな」
「え、いいんすか?!」
なぜか嬉しそうな、盛岡くんの反応。なにそれ、なんか期待しちゃうじゃん。
「うん。りらちゃんあのね、盛岡まだアシスタントで、だから実質練習中みたいなものでさ。本当はお客さんの髪切っちゃだめなんだよね。今日はわたしが特別に許可だしたんだけど……。だからもちろんっ、料金も今日はめちゃくちゃ安いから安心して!」
これで練習だなんて、びっくりだ。
これだけ上手かったら、アシスタントとはいえ、杉本さんも許可するはずだ。
「そんなっ、こんなクオリティ高いのに!いいですよ!」
「だめだめ、いつもの半額より安いくらいだからね」
「えぇ〜〜、いいんですか?」
それってちょっと、お得すぎない?
「あ、そうだ。もし、りらちゃんが本当にお世辞抜きで盛岡に満足してくれてたらでいいんだけど……」
思い付いたように、杉本さんが遠慮がちな目でわたしを見る。
「これからも、盛岡の練習付き合ってくれたりしない?」
盛岡くんが「それは良い!」と輝いた目で言った。
「え、全然いいですけど。でも逆に、わたしで
大丈夫ですか?」
「当たり前じゃんっ!」「当たり前ですよ!」
二人の声が揃った。
こうしてわたしは、盛岡くんの“練習台”になることが決まった。
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