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スマホを手にとると、懐かしい名前が表示されていた。
『向井 渉』
見た瞬間、心臓が変な脈の打ち方を始めた。
夫と付き合う前、最後に付き合った元カレだ。
わたしが好きになりきれなくて、傷付けて、傷付けられた人。
付き合った期間は、わずか半年。
夫と出会う1年前、26歳の頃だった。
あの頃すでに周りは結婚ラッシュで、わたしもだんだんモテなくなってきていた。
証券会社の受付嬢をしていたわたしは、営業でやって来た渉にナンパされた。
スーツ姿がばしっと決まり、やり手な営業マンという印象で格好いいと思った。
「あの、よかったら今度食事でもどうですか?」
今どき珍しい、ストレートな誘いにぐっときた。
あまりナンパとかもされなくなっていたから、素直に嬉しかった。
何度か食事に行き、夫と同様、彼ともすぐに付き合った。
見た目よりも真面目な内面が素敵だった。
わたしは彼に、たしかに愛されていた。
………でも。
どうしても許せないところが多々あった。
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