110人が本棚に入れています
本棚に追加
箸の持ち方が汚いとこ。
クーポンが好きなとこ。
自分の母親の話をやたらするとこ。
私服が微妙にださいとこ。
くしゃみが大きすぎるとこ。
本当に好きになったら、そんな嫌なところさえも全部愛おしく思えるものなのだろうか。
わたしには、わからない。
そして夫の純二さんには、そういう嫌なところが一つもなかった。
彼は、スマートだから。
だから、結婚した。
わたしはパートナーを選ぶとき、いつもそうやって消去法で選んできた。
本気で心を揺さぶられるとか、この人のために死ねるとか。そんな気持ち、知らない。
こんな風に淡々としたまま、人生を終えていくのだ……。
だけど今日、盛岡くんと出会ってほんの少し揺さぶられたのは紛れのない事実だった。
もしもわたしがまだ彼と同い年くらいで、結婚していなかったら。そしてそのまま彼に好意を持ってもらえたら……
わたしは本気で愛し合うということができたのだろうか。
なんて、考えても仕方がないけど。
こんな簡単に、運命の人に出会えるわけがないし。
そんな単純な話じゃない、多分。
『久しぶり!結婚したって聞いたけど、上手くやってる?笑』
相変わらず渉にデリカシーがないのが、この一文だけでよくわかる。
結婚したって聞いたんなら、連絡してくるなよ。
真面目だし一途だったけど、この男のこういうところが無理だった。
それにしてもいきなり、なんなんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!