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あえて人目の多い昼間を選んだのは、渉が興奮しないため。
いい歳した大人が二人、公園のベンチに座って別れ話をした。
「俺は別れる気ないよ」
堂々と、はっきりと、渉は言った。
けれどわたしは無理だった。
「わたしは別れたいの。ごめんね」
「なんで?俺、なんかした?マジで全く思い当たらないんだけど。こんなに尽くしてるのに、いったい何が不満なわけ?」
「尽くしてくれてるのは、すごく嬉しいよ。でも本当に、そういう問題じゃないの」
「じゃあ何?」
引き攣った笑みを浮かべながら、怒りを堪えているような渉が怖かった。
ただただ心苦しくて。そこに愛なんて、なかった。ていうか、愛なんて知らない。
「これはわたし自身の問題なの。渉にはきっと、もっと素敵な人が現れるよ」
「でた、そういうの言う系ね」
「……」
「俺は好きだよ、りらのこと」
「……うん」
好き、っていう感情を、この人は知っているんだ。
「本気でりらのこと愛してた」
そんな言葉を、平気で言えてしまう。
すごいな。
わたしには、無理だ。
「ありがとう」
「なに?それだけ?」
「……ごめんね」
「……」
変な沈黙が流れた。
辺りは遊具で遊ぶ子供たちの声で賑やかなのに。
まるでわたし達だけ、別の世界にいるみたい。
いや、“私だけ”か。
「最後に、一ついい?」
渉が、遠くを見ながら呟く。
「なに?」
「……俺のこと、ちゃんと好きだった?」
一番聞かれたくない質問だった。
わたしは咄嗟に何も答えられなかった。
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