3. 元カレとわたし

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無言でいるわたしに、渉は大きなため息をついた。 「……っんだよ、それ」 「……ごめんなさい」 「俺の時間返せよマジで」 足元の土を軽く蹴った彼の横顔は、もう怒りを隠せていなかった。 わたしが悪いんだ、全部。 でもそんな風にキレられると、ますます早く別れたくなる。 「人の気持ち弄んで楽しかった?」 「弄んだわけじゃない!」 「じゃあなんで付き合ったんだよ」 「それはっ……」 “いいな”って、思ったから。それは本当なんだよ。 でもそこから先の気持ちになれなかっただけ。 恋とか愛とか、わからないんだよ。 あぁぁーと、渉が自分の頭を掻きむしる。 そして突然吹っ切れたように言った。 「まぁ、もういいや。次付き合う人のことはちゃんと好きになれよ。ってか、ちゃんと好きになってから付き合えよ」 そしてわたしの頭にぽん、と手を置くとそのまま立ち上がり行ってしまった。 「渉!」 彼は振り向かない。 「ごめんねっ……、ありがとうね!」 前を向いたまま、片方の手をひらひらとさせているその姿に、なに格好つけてんだと少し笑ってしまいそうになった。 渉との付き合いはこうして静かに幕を閉じた。 わたしは結局、泣かなかった。 思えば恋愛で泣いたことなんて、ない。 そんな過去を思い出し、自己嫌悪になりつつ 『好きになったから結婚したんだよ!』 と、返信した。 嘘だけど、そうでも言わないとさすがに彼が報われない。 わたし自身の見栄でもある。
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