1. 夫とわたし

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夫との出会いは本当にありきたりで、職場の先輩に連れて行かれた合コンだった。 当時の夫は、わたしよりも三つ年上の27歳。 彼の第一印象は『サラダを取り分ける系男子』。 常に周りを気遣っていた。グラスが空になった子には次何飲むかを聞いたり、酔っ払った彼の上司を介抱したりしている姿を見て、なんかいいなと思った。 帰り際、さらっと連絡先を聞かれたので教えた。 それから何度か二人で会うようになって、告白されて付き合って、しばらくしたらプロポーズされた。 なにもかもがトントン拍子だった。 まるで運命に導かれたようにーーー。 ときめくとか、切ないとか。胸がきゅんとするとか、痛いとか。 誰かに会いたくてたまらなくなるだとか。 この人を失えばもう生きていけないと思ったり。 そういう感情を、わたしは知らない。 でも知ってるふりをして、これまで生きてきた。そしてこれからもそのつもりだった。 べつにそれでも上手くやってきたし、燃え上がるような恋じゃなかったとしても、誰かと一緒にいるときの楽しさとか安心感は知っている。 夫といると楽しいしほっとするから、付き合った。結婚した。 恋ではないけど、好きは好きだから。 彼のためには死ねないけど。 「大好き」と言われると「大好き」と答える。 「愛してる」と言われると「愛してる」、「会いたい」と言われると「わたしも」。 今まで付き合った彼氏ともそんな感じだったから、わたしはこういうライフスタイルなのだ。 そして結婚適齢期になったから結婚した。ただそれだけのこと。 わたしは夫を、愛しているふりをする。 友人たちみたいに、そのうち子供もできたりするかもしれない。 そして幸せな家庭を築くのだ。彼となら、きっと上手くいく。 そんな風に、いたって平凡でありきたりだけど幸せな日々を過ごしていくーーー つもりだった。
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