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「りらー、久しぶりー!」
相変わらずその声は大きく、きはきとよく通る。
「やっほ〜。お腹大きくなったね!」
向かい側に座った由美のお腹を、わたしは軽く腰を浮かせ、手を伸ばして撫でた。
ここに新しい命がいるのだと思うと、なんだかとても感動的な気持ちになる。
「でっしょ!来月あたりかな?産まれたら会いにきてね!」
「行く行く。おばさんいっぱい貢いじゃう。女の子だっけ?」
「女の子!わたしも旦那も、今から楽しみで仕方ないよ」
「いいなぁ〜。幸せそう」
愛おしそうにお腹を撫でる由美を見て、わたしも自分のことのように嬉しく思う。
「うん、幸せっ。好きな人との子供なんて、産まれる前からもうめちゃくちゃ可愛いよ」
「好きな人……」
「りらは?まだつくらないの?」
「うーん、うちはまだかなぁ。もう少し二人の時間を過ごしたいなぁと思って」
友人にも、わたしは嘘をつく。
正確には、嘘ではない。が、二人の時間を過ごしたいから子供をつくらないでいるというのは違う。
夫は、結婚してからずっと子供を欲しがっていた。
でもわたしは……
「まぁたしかにそうだよね、妊娠しただけで体調とかも今までとガラッと変わるし。でもりらと純二さんの子供絶対可愛いよね、美形間違いなしっ!」
「ははっ、よく言うよ〜」
わたしは、心のどこかで、まだ足掻いている。
いつか、本当の運命の人に出会えるかもしれないって。
本当に心の底から人を好きになったことのないまま、母親になっていいのだろうかという疑問もある。
「純二さんって、真面目そうだし優しそうだし、稼ぎもいいんでしょ?そんなに素敵な人いないよー。有料物件すぎる!マジでうらやましいよ」
「なーに言ってんの。由美には、素敵な旦那さんがいるでしょっ」
「リョウちゃんねぇ。もうちょーっと稼いでくれたらいいんだけどねっ。まぁ、なんやかんやで幸せだからいいんだけど」
照れたようにはにかんでいる由美を見て、わたしは思う。
きっと由美とわたしは、奥の根本的な部分が全然違うのだと。
わたしは、夫のことを話しながら由美みたいに笑えない。
それなりに幸せだということも、夫が素敵であることも間違いない。
だけど確実に、わたしは夫に恋をしていない。
こんなわたしには、いつか必ず罰が当たるはずだ。
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