1. 夫とわたし

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セミダブルベッドは、二人で寝るには少し窮屈だ。 本当はダブルベッドが良かったのだけど「少し狭い方がりらとくっつけるから」と彼が譲らなかった。 火曜日の午後10時は、必ず二人で一緒にベッドに入ると決まっている。 純二さんが、電気を消す。 「りら」 「はい」 後ろから抱き付く純二さんの手が、わたしの腰に触れる。 優しく撫で回され、その手は腰から胸へと移動する。 首筋に、彼がキスをする。 ぴくん、とわたしは感じるふりをする。 もうすでに、純二さんの息は荒い。 「はぁ、はぁ、りら……りら、好きだよ、りら……」 でた、いつものこの台詞。 「純二さん……」 とりあえずわたしも名前を呼んであげる。 パジャマをめくられ、あらわになった胸元に彼が吸い付く。 「あっ……」 わたしはまた、感じるふりをする。 その間もずっと、彼はわたしの名前を呼び続ける。 「りら……りら、りら……はぁ、はぁ、りら……愛してるよ」 「んっ……」 「りらは?僕のこと、愛してる?」 「当たり前じゃない」 わたしは、平気で嘘がつける。 「嘘だ……本当は愛してないんじゃないか」 「あぁっ」 純二さんの指がわたしのパンツの中に入ってきて、そのまま掻き乱される。 身体は正直で、すっかり潤ったそこは素直に反応する。 「んっ……純二さん、あっ……あぁっ……」 「可愛いよ、可愛いよりら。はぁ、はぁ、もうダメだ」 こんな流れで、私たちはいつも一つになる。 体力に、腰づかい。純二さんのセックスは、全然悪くない。むしろ、良い。 ただ、言葉が気持ち悪いだけ。 「りらっ……あぁ、僕だけのりら。可愛いよ、可愛いよりら……僕の奥さん、僕だけの奥さんだ、あぁっ……」 まるで、昔読んだ変な漫画に出てくる変態のおじさんみたい。 黙ってやってればいいのに、どうしてこんなに変な言葉ばかりが浮かんでくるのだろう。 言われる度に、せっかく盛り上がっていた感情も冷めてくる。 それもこれも、わたしが純二さんを心から愛していないからなのだろうか? 本当に好きな人だったら、そんな気持ちの悪い言葉さえも嬉しく感じるものなのだろうか……。 わからない、わたしには。 “愛のあるセックス”なんて、知らない。 ただ喘ぎ、イッたふりをする。 適当に言葉を返す。 ーーーそれだけだ。
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