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prologue
なんとなく、生きてきた。
それなりにちやほやされていた、幼少期。
少しの間だが、子役事務所に入っていたこともある。
あの頃のわたしは「可愛い」と言われるのが、なによりも苦痛で仕方がなかった。
「お人形さんみたいね」
「りらちゃんは可愛いからいいよね」
「本当、美人さん。うらやましい」
言われるたびに、なんとも言えない居心地の悪さを感じていた。
嬉しくなんて全然なかった。
むしろ「ブス」とか「デブ」とか言われて、からかわれているような女の子になりたかった。
少し大きくなって、10代。その真逆の現象が起きた。
可愛いと言われたくて仕方がなかった。
言ってほしいと願うほどに、あまり言われなくなる。なんなんだろう、あの現象。
自分よりも可愛い子の存在が、気になって仕方がない。
幼少期には1ミリもなかった劣等感に包まれていた。
だからといって、とくに自分を磨こうとはしなかった。
そして20代。間違いなく、前半だけが全盛期だった。
若くてある程度可愛かったら、誰でもちやほやされる。どこに行っても優遇される。
たしかにモテたが、周りの友人たちもみんなある程度モテていた。
20代後半になると、この前までのモテ期は一気に落ち着き、今までの遊び仲間のほとんどが結婚してしまった。
なんとなく楽しくなかったわたしは、ちょうどプロポーズしてくれた男と結婚した。
そして昨日、11月3日。
わたしは30歳になった。
誰もが羨むような素敵な旦那がいて、誰が見ても“幸せ”と言われるような日々を送っている。
そんなわたしは、この歳になってもまだ一度も人を好きになったことがなかった。
ーーーあなたと出会うまでは。
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