いらない僕

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弟の良は現状に不満はないらしく、学校生活も含め順調らしい。 いつまでもわだかまりを抱えている要との差を否応にも見せつけられる。 「とにかく、そんな汚い手紙早く捨てちゃいなよ。 いってきまーす」 良は明るい声でそう言い放ち家を飛び出していった。 ―――・・・良は何も分かっていないんだから。 要は汚れた全身を洗うためシャワーを浴びて私服へ着替える。 そして拾ってきた手紙の上に大きな紙を置いた。 そこに“捨てるな!!”と油性ペンで書き示す。 ―――・・・まぁ、これでも捨てられるだろうけど。 ―――この前もこの“捨てるな”っていう紙ごと捨てられていたからな。 ―――でも俺はめげないぞ! 机の上でその場所だけが異様に際立っていた。 全体が整理整頓されていて埃一つも落ちていない。 しかし、本来の要は整理整頓が酷く苦手である。 ―――・・・俺は物を捨てることが苦手だ。 ―――取捨選択ができない、どれが必要なものでどれが必要じゃないものなのかが分からない。 ―――だから部屋は物で溢れ返って散らかりやすい。 ―――でもこんなに綺麗に保たれているのはきっとアイツのおかげだ。 ―――だから悪いところばかりじゃないのかもしれない。 ―――・・・でもこの手紙だけは絶対に捨てさせないから。 時計へ目をやった。 ゴミ捨て場を探ったりシャワーを浴びていたため時間が押してしまっている。 ―――そろそろ朝ご飯を食べにいかないと・・・。 重い足取りでリビングへ向かう。 いつものようにドアの前へ行くと足がすくんで動けなくなってしまった。 ―――またこうなるのか・・・! 「要ー? 遅かったわねー。 全然顔を出さないから心配したのよー?」 「・・・」 「要? どうしたんだ?」 母だけでなく父の声も聞こえてくる。 新しい母は要を本当の自分の息子のように接してきていた。 嬉しいことだがそれが逆に素直になれない自分のせいで余計心苦しく感じてしまう。 ―――早く顔を出さないといけないのに。 ―――・・・でも、怖い。 無意識でキュッと目を瞑ってしまった。 その瞬間心のどこかでカチッという音が聞こえた。 それが合図。 「おはよー。 お母さん、お父さん」 要の足取りは既に軽く、軽快にドアを開けると自然と挨拶が零れていた。 そのまま食卓へ着く要の表情は笑顔に満ちている。 「おはよう。 要、大丈夫なの?」 「え、何が? 大丈夫、何もないって! というか腹減ったー! 今日の朝ご飯も美味そうー!!」 「そう・・・? 今お味噌汁を注ぐから待っててね」 母はキッチンへと戻っていく。 それを見送り、要は不可解に辺りを見渡し始める。 まるで自分が今いる状況を確認するように。 ―――ふあぁ、眠・・・。 ―――俺が夜中に起きて部屋を片付けたり手紙を捨てたりしているせいか。 ―――でも仕方ねぇよな。 ―――こうでもしねぇと要は前へと進めなくなるから。 チラリと母を見る。 母は後ろ姿だけでも気分がよさそうに感じ取れた。 ―――いつも母さんと接する時は俺にチェンジする。 ―――アイツが緊張し過ぎて気絶しそうになるから強制俺に代わっているようなもんだ。 ―――・・・でもこのままだと何も変わらなくて駄目なのかもな。 ―――いつでも母さんと要が普通に接することができるように俺が上手くやっているというのに。 ―――要が出てこねぇと意味ねぇじゃねぇか。 ―――今もだけど甘やかし過ぎたのか? ―――要にはもっと厳しくしていかねぇと成長しねぇのかもしれないな。 朝目覚めたばかりの要とは表情や仕草からして変わっている。 心臓の辺りに目線を落とし、小さく息を吐いてみせた。 ―――本当に世話の焼ける・・・。 要は両親の離婚を機に解離性同一性障害を発症した。 所謂、二重人格である。
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