いらない僕

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クロが現れることを要は止めることができない。 主人格であるというのにクロという存在を受け入れてしまったがための代償だと考えている。 人格の入れ替わったクロは用を済ますと教室へ戻る。 クロは要の主人格での出来事を正確に把握しているのだ。 その時水島がやってきた。 「あ、要くん! さっきの話の続きなんだけど」 「お、あのさ、水島」 「え?」 ―――・・・うわ、しまった! ―――家の中でしか代わらねぇから外で人と話すのは初めてなんだよな。 ―――相手が母さんじゃねぇからついうっかり呼び捨てに・・・。 当然慣れない呼び捨てをされた水島は困惑した表情を浮かべていた。 「・・・水島、さん」 「ど、どうしたの?」 「急で悪いんだけどもう弁当いらないわ」 「え?」 「ごめんな。 今まで作ってくれてありがとう」 「え、待って!」 立ち去ろうとすると腕を掴んできた。 「急にどうして? 私が作ったお弁当美味しくなくてずっと無理していたの・・・?」 「そういう意味じゃない。 俺にお前はもう必要ないんだ」 「ッ・・・」 そうキッパリと告げると涙を浮かべた水島はどこかへと行ってしまった。 ―――・・・キツく言い過ぎたか? ―――でもここまでしねぇとな。 ―――たまには本当に必要なものも失ってみねぇと分からねぇことだってあるんだから。 ここで心のどこかでカチッと音がした。 「・・・あれ? さっきまで俺どこにいたんだっけ・・・。 あ、もう講義が始まる」 何も知らない要はいつも通り講義を受けた。 休み時間になり誘うリベンジをしようと水島のもとへ駆け付ける。 「あ、あのさ、水島さん!」 「・・・」 「・・・あれ?」 水島は一瞬要と目を合わしたが、逃げるようにどこかへと行ってしまった。 ―――・・・トイレとかかな? 不可解には思ったがどうすることもできないため次の講義を終えてからもう一度話しかけることにした。 しかし、彼女を目の前にしてやはり今朝会った時とはまるで違い別人のように感じられた。 「水島さん!」 「あ、ご、ごめんなさい」 「え、どうして急に敬語?」 水島の目の前に立ってみたが水島は軽く頭を下げ要を避けていった。 ―――何かおかしい・・・。 ―――俺何か気に障るようなことでも言ったかな? ―――まさかクロが・・・? ―――いやでも、今まで学校で現れたことはないし・・・。 不安ではあったがどうすることもできず、午前中の講義を全て終えてしまった。 原因は分からないが水島に謝り一緒に昼食をとるため誘い直そうと思った。 「水島さん! 一緒にお弁当食べよう!」 そう言うと水島は目を泳がす。 「あ・・・。 もうお弁当はいらない、って今日からだよね?」 「え? 何のこと?」 「もう私のお弁当は必要ないんでしょ?」 「え? 誰が言ったの、そんなこと!? 俺が言うはずないよ!!」 「要くんに私はもう必要ないんだよね。 ・・・ごめんね、もう関わらないようにするから」 そう言うと水島は涙を流しながら荷物を持って教室を出ていってしまった。 水島の口から出た身に覚えのない言葉。 今まで家以外では人格が代わったことがないため油断していたがすぐにクロが言ったのだと分かった。 ―――・・・どうして? ―――どうして俺から水島さんを奪ったの? ―――今のお母さんを大事にしろ、っていうのは分かる。 ―――俺だって本当はそうしたい。 ―――だけどどうして水島さんなの? ―――クロにとっては必要ないかもしれないけど俺にとっては必要な人なんだよ? 問いかけても答えてはくれない。 もう一人の自分と会話することなんてできないのだ。 ―――・・・俺は百歩譲っていいとしても、どうして水島さんにあんな辛い表情をさせるんだよ。
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