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お屋敷
ミツは、7歳になった頃、奉公に出された。
普通はお店なんかにいく子供が多いのだが、ミツは大層利発だったし、それを小さい頃から知っている、ミツの家の父方の親戚が、知人の家で子供の手伝いを探していると、ミツをお屋敷の奉公にだすよう両親に言った。
貧しい暮らし向きの者たちが、子供を奉公に出すのは、いわば、ほとんとが身売りの状態だ。15歳程になって、一人前になるまでの身の回りの世話や、食事など、生活の面倒を見る代わりに、子供はその、奉公先の用事を教わって賃金を貰うでもなく、働き続けるのだった。
貧しい家では、子供が一人減れば、働き手も減るが、口も一つ減る。着る物や食べるものなど、長い目で見れば、ある程度大きくなった子供は、跡取り以外は大抵方向に出される時代だった。
ミツは、親戚に連れられて、そのお屋敷まで子供の脚で丸2日歩いた。
途中、おっかさんが握ってくれた握り飯を食べ、竹筒の水を飲み、親戚と一緒に、ずっと歩いた。足は、草履で擦れて、血がにじんだ。
秋も深まった頃だったので、薄いミツの着物では歩いても歩いても寒かった。
でも、ミツは泣き言は言わなかった。言っても待ってもらえないことは分かっていたし、見慣れぬ景色になって行く山や空を眺めながらただ、黙々と歩いた。
二日かかって、ようやく奉公先のお屋敷に着いた時には二日目の夕方のなっていた。もう暗闇が迫っている。
お屋敷の裏口から、ミツの親戚とミツはそっと中に入って行った。
「こんばんは、お約束の奉公の娘を連れてきました。」
親戚の叔父が土間から声をかけた。
丁度夕餉の支度の時間だったのだろう。土間では良い匂いがしていた。
ミツは腹が鳴った。
「あぁ、遅かったね。とにかく、今日の所は私達と食事をして、眠りなさい。」
女中頭だと言う50代ほどの、サトという女性がミツと親戚を土間の子上がりに座らせた。
ミツの血が出た足を見ると、
「まぁ、痛かっただろうに。」
と、言って、足を洗う桶の他に、綺麗な水の入った桶を別に用意してくれて、サトが自らミツの足を洗って、綺麗な水ですすぎ直し、薬をつけて、簡単に包帯をしてくれた。
「あ、ありがとうございます。ご迷惑をおかけします。」
ミツがあわてて言うと、サトは『プッ』と笑った。
「まぁまぁ、幾つでしたっけ。小さいかと思ったけれど随分キチンと躾けられて。これなら十分に勤まりそうですわ。」
そう言って、満足そうにミツと、親戚の叔父に夕食の膳をくれた。
台所には、女中さんがサトを入れて3人。男衆が2人いた。
皆、黙々と飯を食う。ミツは家ではお祝いの時にしかでないような大きな魚の煮つけと、全て白米のご飯、そして、具だくさんの味噌汁を綺麗に平らげた。
お勤めの仕事の内容については、親戚の叔父は知っているようだが、ミツには明朝、この家の大旦那様が話すと言う事で、親戚の叔父は、食事をとると帰って行った。
一人残されたミツは、他の女中さん達と一緒に、4畳ほどの部屋に寝た。
寝具は薄い敷布団と、薄い掛布団。3人の布団をくっつけて敷いて、ミツはサトと、もう一人の若い女中のキヨの間に入った。
布団に入ると、人の体温の温かさと、お腹がくちいのと、二日間歩いて疲れたので、ぐっすりと寝入ってしまった。
サトと、キヨは、可愛らしい顔をしてぐっすりと眠っているミツを、複雑な顔で見ながら、顔を見合わせた。
キヨ「逃げ出さないといいけど。」
サト「逃げ出せるわけもないけど。」
キヨ「明日からは、部屋も違うし。気にしても仕方ないか。」
サト「うちのお坊ちゃんだって、あんな風に生まれつきたかったわけじゃないでしょ。それに、暴れるってわけでもないのに座敷牢は可哀そうだよねぇ。
でも、この子が来たから、中庭だったら出してもらえるでしょ。少しはお日様に当たんないと別の病気になっちまうよ。」
キヨ「まぁ、坊ちゃまが、この子の顔に嫉妬しなければいいけど。目がクリッとして何とも可愛らしい娘じゃないか。」
サト「そうねぇ。大丈夫だとは思うけど、実際に合わせて見ないとわからないわね。さ、明日も早いんだから寝るわよ。」
こうして、女中部屋の夜は更けて行った。
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