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目的地が、サミジーナだと分かっていても、どうしても追い付くことは不可能に近い。だが、彼らは逃げているのだから、自らの足で移動している可能性もある。となれば、追い付く術がないわけでもなかった。
「飛竜での移動ですか……」
「あぁ、まず追い付くにはそれしかない。移動魔法が使えるお偉いさんが動いてくれるとは思わないからな」
何度も曲がらなければならない地上の道よりも、直線で動ける飛竜のほうが圧倒的に速いと考えていた。
空に、障害はない。
「それもそうですよね……でも、飛竜なんてどこから持ってくるんですか? そんな……絶滅種を?」
ただし、飛竜はもう存在していなかった。大戦の時に、既に消えてしまっている。
しかし、グーシオンは勝ち誇ったような強い笑みを作った。
「ふっ……心外だな、レナ。そんなもの、別の空間からに決まっているじゃないか」
グーシオンは、滅茶苦茶と思われても仕方ないような事を言ってのけた。
しかし、それこそがグーシオンの真価であり、得意分野なのだ。
召喚師(サモナー)。
それが、グーシオン。
「そうと決まれば早くするぞ。あぁ、久々に胸が高鳴る……初めてだ……不思議な力を宿しているものは……」
レナは言葉を静かに受け止めた。意味は、無い。
「さて、中庭に向かおう。魔法陣を画く」
その魔法陣の完成は、半時間ほど後のことになる。
†
禍々しいまでの、曇天。
しかし、雨も雷も無い。
黒く、厚い雲に覆われた、一つの空間が出来上がっていると言っていいだろう。
異常気象と言うに相応しく、太陽の光を完全に遮っていた。
そこは、日本、京都府。
歴史的な街が、不気味な姿を見せていた。
†
アイニはいま、図書館にいた。セエルは、一人で色々な場所を巡っている。日が沈む前に、宿に戻ると言う話だ。
「(……無いな)」
アイニが探しているのは、特殊な魔法についてである。すでに目の当たりにしてしまっているそれを、知らずにはいれなくなったのだ。
しかし、そんな文献は何処にもなかった。
と言っても、こんな小さな図書館にそんなものがあるとは思っていなかったのだが。
「(そろそろ行くか)」
外はまだ明るい。約束にはまだ時間があるが、有力な情報は得られないだろうと思ったからである。
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