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「なぁ……」
しかし、この沈黙に耐えかねた彼は、何となくで口を開いていた。
「なんでしょう?」
「君、名前は?」
「レナ・フォラスです」
「そうか」
会話が広がらない。
「……二つ名、〝探索者〟」
彼の耳に聞き慣れない言葉が飛び込んでいた。
何なんだと考えようとするが、到底分かるはずもなく、結論に至る前に声をかけられていた。
「あなたは?」
反射的に名を名乗ろうとする。
「俺は、か……」
しかし、彼は口籠もってしまった。そうせざるを得なかったのだ。
「か、なんですか?」
「か?」
既に、何を言いたかったのかすら分からない。深く探ろうとするが、何も思い出せない。否、何もではない。
何か、大切なことだけが綺麗に抜け落ちている。ぽっかりと、外れている。
その一つ、
「俺は誰だ?」
自分の存在の根源が分からなかった。
渦巻く、不安。喪失感。虚無感。そんな、全部。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
その恐怖に、彼は叫ぶことしかできなかった。
それはやはり空虚に谺し、清々しい程の空の青へ吸い込まれる。染み渡るように、薄く、広がる。
その時、慌ただしい足音が一つ、部屋に近づいていた。叫び声に呼ばれ駆ける、一人の若者だ。
「どうされたのですか!?」
そして、勢いよく扉を開けた。
その格好は、一目で警備員とわかる。しかし、否、やはり、着ている服はコスプレじみていた。しかし、今の少年にはそれを理解できるほどの余裕を有していなかった。
「急に彼が叫んで……」
レナがその男に、端的に説明する。
それ以外は必要ないからだ。
「俺は誰だ? 名前は何だ? そうだ、そもそもここは何処なんだ? 俺は何処に住んでいた? 何なんだ? 何がどうなった?」
すべて、彼が話していた。そして、発していた。
べっとりとまとわりつくような、何か。気を許せば気絶しかねない覇気。
男はそれに当てられ、ふらついた。同時に、立っているレナを見、その凄さを理解する。
「グ、グーシオンさまを呼んできます!」
言い終わるよりも早く、男は覚束無い足取りで走っていった。
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