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城下町は悲惨なことになっていた。
誰かが風の魔力を操り、
巨大な魔法を起こした。
その魔法、一般名は〝ライトニング〟。風の初歩魔法。
それの巨大なものだった。
その被害は、町に空いた巨大風穴によって物語られている。
幸い、落ちた場所は人気の少ない一角だったので、被害はあまり大きくはなかった。しかし、幾人もの人間が、死んでいた。
死者は、全てが感電死。殆んどが、即死だっただろう。雷に打たれ、運よく生き残ったものは、いない。
そして、それを起こした張本人は今牢獄にいた。気味の悪い程に薄暗い、多重結界の牢獄。
独房にしては少し大きい牢獄で、横たわっていた。
それは、彼が危険人物として扱われている故。
暴走とはいえ、多くの人を殺しているのだから、そこには十分すぎる理由がある。即座に死刑とならなかったのは、単にそう言う決まりだからだ。
「しかし、こんなガキがあんな巨大な魔法を使えるとわな。まったく、世もこえぇもんだ」
不精髭を存分に伸ばした、中年の男は、ぶっきら棒な様子で言っていた。
しかし、周りには彼以外存在しない。まったく無意味な言葉である。
それは己の力の過信か、それとも結界への信用か。
しかし、その状態が、彼女にとっては好都合だったのだ。
天井の木の骨組みに匠に掴まり、機会をじっと伺っている。息を潜め、確実に任務を遂行するために。
無精髭の男は、それには当然気付かない。それどころか、呑気にも鼻唄まで歌い出していた。
よほど暇だったのだろうか。否、それは、絶対的な安心感があるからこそだった。
その様子を、彼女は逃すはずがない。出来上がった機会を無駄にしないよう、フクロウのように、音もなく体を動かす。
そして、跳躍した。
その刹那、無精髭の男はそれに気付くが、遅すぎる。既に、避けることはままならない距離とスピードだった。
「はっ!」
空中からの不意打ち。
首の根元を狙った飛び蹴はみごとに命中した。寸分の狂いもなく決まったためか、それとも、全体重を乗せた攻撃からか、脳みそを揺らされた男は気絶をしざるを得なかった。
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