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彼女は仕事の出来映えに満足し、耳を澄まし辺りを見渡す。どうやら、気付かれた様子はない。
そして、多重に張られた結界の牢獄を見た。
「(……本当にいた……妙な服装の男)」
ポツンとそこだけが切り取られたように感じた。
薄気味悪い牢獄とは正反対の、まだ無邪気と言えそうな寝姿が原因だろう。
「(いや、少年か……)」
この際どちらでもよかったが、姿を確認したため、無意識にそう思っていた。
しかし、それは全て無意味なことだ。自分はただ、任務を遂行すればいいのだから。
少年から目を離し、結界を破るために動き出した。
結界と呼ばれるものは、数ある防御壁の総称である。そして、防御壁は必ず媒体と言うものが存在する。
それは術者であり物であり、存在するものでは何でもよい。しかし、媒体が動いてしまえば、力の均衡を崩し、崩壊する。
それを狙うのだ。
牢獄の結界は、内に媒体がある事はない。何より抜け出されてしまうし、解くことが出来なくなる。
しかし、それでも破ることは簡単ではない。
ダミーも必ず存在するのだ。
しかし、彼女には関係ないものだった。
「(右の一番下……)」
彼女はしゃがみこみ、指示された辺りを見回す。
レンガに、よく見なければ気付かないような小石が突き刺さっていた。その数は二つ。ただ、これらはどちらもダミーであるらしい。
正解は、その間のレンガ。よく見れば、切り取られているのが伺える。
そして、それを少し押し込む。
すると、多重の結界は音もなく解け始め、ただの結界と成り果てた。
「──何?」
つまり、一つだけ残っていたのである。これは予想外だった。
しかし、それでも冷静に、あくまで慎重に行動する。
「(〝シールド〟……簡易結界か……最後の悪あがきと言ったところか)」
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