第二夜「旅立」

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しかし、それを解く鍵は持ち合わせていなかった。 それに、一見しても鍵を見付けられそうに無い。探していたら、交代の兵がやって来るだろう。 「(この程度なら力業で壊せるか……)」 ゆえに、冷静に判断し、行動に移す。 魔力を感知することに長けた人間がいればバレるだろうが、結界が解けても何も変化が無いと言うことは、そのような人物はいないと言うことだろう。 故に、腰に付けたナイフを取ろうとする。その時だった。 彼が動いたのは。 と言っても、頭を傾けただけである。 しかし、それで二人の視線は重なった。 「や、やぁ少年」 だが、返事は返ってこない。表情もどこか虚ろで、まるで人形にも思えた。 「(つれて帰るのがめんどくさそうだ)」 そうして、彼女はやっとナイフを抜いた。そして、小さく詠唱する。 「猛き焔」 ナイフは媒体。それを起点とし、魔法を発動させる。 「盟約に従い、爆ぜよ」 刹那、持っていたナイフに勢いのいい、炎が灯った。揺らめくそれは、神々しくも猛々しい、紅蓮。そして、消して終えない必死の炎。 彼女は一種の爆弾と化したナイフを、結界に投げつけた。 後は、こめられた魔力どうしのぶつかり合いだ。それには、アイニは自信がある。張られている結界は高度なものではない。ただ単純に、魔力を防御へと移しただけの結界だ。それに、強い魔力を込めることは出来ない。 放たれたナイフは赤の軌跡を描き、一直線に結界へと向かった。そして、簡易結界・〝シールド〟と思っていたものに触れた刹那── まるで、風にでも吹かれたかのように炎を掻き消え、ナイフは流された。 「っ!! 見誤ったか」 乾いた、金属が鳴らす特有の音が暗い空間に谺する。 冷静にいようとするが、驚きを隠すことが出来ないでいた。それでも、小さな声で叫んだのは流石と言うべきだろう。 しかし、逆を言えば、声を上げさせるほど、以外だった。 見た目の特徴は、どこからどうみても、〝シールド〟。その筈なのに、攻撃は遮られ……否、掻き消された。〝シールド〟とはまた違う結界なのだろうと、考えを改める。 そして、力業では相当苦労することが、分かった。 それでも、時間はあまりない。急ごうと、また新しいナイフを取り出す── 「!」 少年が勢い良く起き上がった。
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