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虚ろな瞳には光が宿り、今までの無気力な様子は嘘ようだった。だが、眠たいのか少し呆けている。
「こ、ここは……」
そう、一言。
ほぼ同時に、結界が、音もなく消え去っていた。
これの意味するところ。すなわち、
「(少年自ら張っていたか……しかし何故……)」
だが、他人の考えることなどあくまでも憶測であり、考えるだけ無駄だと知っている。時に有効なときもあるが、今は圧倒的に前者だ。
「やぁ少年。おはようだ。ただ、もう真っ昼間だがな」
牢獄の中に入り込み、少年の元へ近付く。五歩程度で触れ合える距離に至った。
少年は上半身だけを起こしているために、必然的に見下す形になる。
「え、うん……」
突然のことに、少年は少したじろいだ。それでも気付かずか、その少女は言葉を繋げる。
「ところでだ。私についてきてはくれないか? もし、そうしなければ、まず君は殺されるぞ?」
「え? いや、あの」
少年はいやに狼狽えていた。無理もないだろう。
彼の記憶では少し前にはベッドの上に横たわっていたのだから。今の状況は何も理解できないのだ。
暗くて、湿っぽくて、狭い石の部屋に寝ていて、目の前には全く知らない“女性”がいる。なぜそうなっているのか、見当がつかない。
「(そういえば……)」
彼女はある事を思い出す。
「少年。言葉を改めよう。私とサミジーナにこないか?」
「サミジーナ?」
しかし、その言葉に、強く少年は反応した。少し呆けていたような表情も、引き締まる。
「(本当に反応した……あいつ、何者だ……?)」
彼女は、自分の依頼主を思い浮べた。
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