第二夜「旅立」

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何処にでもいるような、長髪の魔術師(ウォーロック)。 彼の情報は的確すぎるのだ。それには、彼女すらも驚いていた。 「(もしかして、預言者だったのか?)」 しかし、それはない。 「(いや、違うか……)」 かと言って、どの様な情報網があるのかは全く理解できない。スパイがいると言うのが妥当だが…… 「あの……?」 少年の一言で現実へと引き戻される。 「おっとすまない。なんだ?」 そして、彼女は自分の買いかぶりに反省をした。 薄暗い牢獄で会話が再開される。少年は自分の状況が一切分からずに、彼女は目的を遂行するために。 「あなたは、誰ですか?」 「……」 彼の初歩的な質問に、場は妙な緊張が張り詰めた。 例えるなら風船。 張り詰めた風船が今にも割れようとしていて、割れたら中から紙吹雪きとかテープとかが飛び散るのだ。 そんな状態。 「くっくっ……この状況で面白い事を訊く……いや、この状況だからこそか?」 何時ものように自分で答えを導きだす。 ただ薄暗いだけの空間に、妙な笑い声だけが谺している。 それは風船。 耐えに耐える、奇妙な風船。 「すまないな……私はアイニ。アイニ・マルファイだ」 それでも、その風船は強かった。 「君は、セエル・ラマンスとお見受けするが?」 少しおどけて言ってみせる。
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