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何の変哲もない黄昏時。
何ら変わりのない日常。
何も起きはしない世界。
そんな日常に、一種の諦めの様な感情を抱いたまま、学校に最寄りのCDショップにいるのは、今日に至っても同じだった。
その店に通うのは、もう何度目になるかはわからない。ただ、中学三年生の中頃から、殆どの放課後はこのCDショップから始まっている。
CDの位置なんかは、下手な店員よりは把握していると自負できるほどである。
高校生になれば、ここでアルバイトをしようなどとも考えたこともあった。
あそこには、洋楽──あっちは、JPOP──その隣に、アニメ関連、近くにDVDも置いてある──そして、反対側には演歌が……
しかし、そうすることは無く、ただただ無意味な情報が、知識として淡々と積もり行くばかりである。
あんなに通っているが、そこまで音楽は好きではない──嫌いか、と言われれば否むが。それに、ここで何かを買ったことなど…片手で数えられる。
それでも通う理由は、楽しいからに他ならなかった。
そんな一種の矛盾の中、少年は、やはり、何をするわけでもなく、ただ、BGMに耳を傾け、歩いていた。
たぶん、この雰囲気が好きなのだろうと自己満足をする。
整然と並べられた無機質なケースや、忙しく鳴り響く気にならない音楽、疎らに立っている雑踏。
また、何を買わずに、少年は店を出ていった。
威勢のよい、ありがとうございました、と言う声が幾重にも谺する。
そして、少年は、歩く。
出てすぐの交差点。
同じように制服を着ている人間は少なく、代わりに、と言うべきか、スーツを着ているサラリーマン(と、思う)や、単純に私服の老若男女が信号を待っている。
それに倣い、少年も雑踏に混ざりあった。
目の前に、小さな、恐らく幼稚園児ぐらいの子供が、母親に手を捕られ、跳び跳ねたりしてはしゃいでいた。
そんな、微笑ましい光景を見ているのも束の間。
いつの間にか、信号は変わり、少年はサラリーマンを追って、先を急いだ。
──刹那、
「?」
誰かに、呼ばれた気がした。
ふと、後ろを振り返る。
誰もいない。
いや、人は確かにいるのだが、物理的に、ではなく、空想的に、人がいない。
だが、確かに、〝喚ばれた〟。
そして、そう、それは──呆気なく終わって、始まった。
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