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しかし、アイニはまだ気付いていなかった。
いや、むしろ気付けなかったと言うべきだろう。
もっと言えば、気付く事を怠った。
少年の、セエルと呼ばれた少年の言葉が、アイニにはとても滑稽で、滑稽で、思わず今が仕事の最中と忘れてしまっていたのだ。
だから、こんな薄暗い牢獄で、こんな密閉された空間で、声を上げすぎてしまった。
セエルの存在が、彼女を確実に崩してしまっていた。
最初から会話はすべきではなかったのだ。
それが、最大のミスだった。
「お、おい! 結界が解けているぞ! 兵を呼べ! 早く! 早く!」
「なに!?」
そして、大きな失敗を生み出した。
「くっ! 少年、逃げるぞ!!」
「逃げるって何処へっ──うわ!」
アイニはセエルを抱え上げていた。
力強く、しかし、物を扱うように。
だが、セエルは男である。まだ若いとはいえ、相応の体躯を持っている。
そう長くも持っていられないことはすぐに理解した。
「無理か……なら……」
この時こそ、冷静に考える。
地を把握し、最善の逃げ道を作り出そうと、見渡した。
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