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入り口は狭く、一度に多人数は入ってこれない。さらに、空間は横に狭く、縦に広い。しかし、狭いと言えども人一人は寝そべることは出来るだろう。
そして、天井には木の骨組みがある。
さらに、ここは地下。
記憶している構造を頭に思い浮かべる。
「(……そうだ! 下水道が傍を……だが、壁はかなり厚いはずだ……)」
しかし、またアイナはミスを犯していた。
ここには、三つの存在があることを、
自分が一人、気絶させていたことを、
周りが薄暗すぎて、見落としていた。
「あぁぁ!」
不精髭を生やした男が、手に諸刃の剣をもって、突進していた。
寸前のところで気付くが、それは遅すぎた。
両刃の剣は迫り、狙いもしっかり定まっていない大雑把な刺突は、
「……っ!」
アイニの脇腹を抉った。
血が衣類に滲み、紅い染みを広げてゆく。傷は、さほど酷くない。出血も大したものではない。しかし、それ以上に動揺が激しかった。
それでも、彼女はナイフを手に取り、男の首を斬り裂く。
鋭利な刃は、男の首を中程からを、掻き斬った。
生々しい傷が見える。傷口はとても赤い。誰かがピンクだとか言っていたが、嘘だ。馬鹿のように鮮やかで、どす黒い、赤。噴き出すそれも、また同じ、赤。それは花吹雪なのか、狂ったように舞っている。セエル・ラマンスの目の前で、舞っている。
視界は、真っ赤。
首に掘られていた刺青も、赤く染まって、見えなかった。理解など、決してできる筈が無かった。
様々な、要因、事象、出来事。全てが幾重にも重なり、絡み合い、生じた一つの事実。途方もなく存在する中の、たった一片。
セエルの目の前で、それは一つ、燃え尽きた。
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